
「もう習い事をやめたい」——そんな子どもの言葉に、どう対応すればいいのか悩む親は多いもの。無理に続けさせるべきか、それとも本人の意思を尊重すべきか……。今回は、教育メディアの編集長としてもご活躍されている教育研究家・征矢理沙さんに、親としてどう向き合うべきかを解説していただきました。「良い親」と「毒親」を分ける判断軸とは?習い事のやめ時に悩むすべての親に役立つヒントが詰まっています。
日本の親は「やめること」に抵抗を感じやすい

「継続は力なり」「石の上にも三年」……これは日本に昔から伝わることわざです。
日本人は「継続すること」に美徳を持つ価値観が強く、「辛抱」「我慢」「忍耐」など、辛いことに耐える言葉も豊富です。
逆に、一度始めたことをすぐにやめたら「堪え性がない」と言われたり、「逃げ癖がつく」と批判されたりすることもあります。
これはもともと、日本が農業をしてきた国であり、近代までは日本人のほとんどが農民であったことにも関係があると考えられます。
雨の日も風の日も耐えてひたすら農作業を続けることで、豊かな実りが得られるという体験が、遺伝子に刻まれているのかもしれません。
そんな価値観から、子どもの「習い事」についても、一度始めたらやめることに抵抗を覚える親が多くいます。
もちろん「やり抜く力」は大切ですし、続けたからこそ得られるものもあるでしょう。
しかし、何かをやめることは常に悪かといえば、そうではありません。
新しいことを始めるためにも、何かをやめる必要がある場合もありますし、今やっている習い事が、かえって子どもの成長に悪影響を与えている場合もあります。
子どもが習い事をやめたいと言う理由は?

日本の教育業界大手企業が実施したアンケートを参照すると、子どもの習い事をやめたきっかけの一位が「子どもがやめたいと言った」こと。
やめたいと思った理由としては、以下のようなことがあるようです。
子どもが習い事をやめたいと言うポジティブな理由
- 習い事よりも、他のこと(学業・勉強など)の優先順位が高くなった
- 目標や目指している水準を達成した
- 新しい習い事など、別のことを始めたくなった
子どもが習い事をやめたいと言うネガティブな理由
- 習い事の内容との相性が合わない
- レッスン内容や目標設定が合わない(不十分/難しすぎるなど)
- 周りの子よりもうまくできない
- つまらない、もっと自由時間が欲しい
- 指導者との相性が合わない
- 時間や場所などで通うのが大変
- そもそも自分の意思で始めたわけではない
参照:
栄光ゼミナール 小中高生の習い事に関する調査
https://www.eikoh.co.jp/news/torikumi/p143062/
ニフティ 習い事についての調査
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000366.000023383.html
子どもの習い事、やめるべき? 続けるべき? 判断ポイント

子どもが習い事をやめたいと言い出した時に、やめないで続けた方がいいのか、やめた方がいいのか、判断するポイントを紹介します。
習い事をすぐにやめない方がいい場合
子ども自身に、本当はやりたい気持ちがある
失敗してしまったり、嫌なことがあったりして、子どもが一時的に挫けていたり、やる気を失っていても、子ども自身に本当はやりたい気持ちがある場合もあります。
すぐにやめさせず、まずは問題を解決できるよう大人がサポートすることが必要です。
成長に必要な壁にぶつかっている
成長の過程で壁にぶつかることもあります。練習が大変、新しいチャレンジがうまくいかない、これまで伸びていたのに急に伸びなくなった……など。
そんなときは、習い事の指導者とも今の状況をよく話し合い、指導者と協力し合って壁を乗り越えられるようサポートすることも、親の大切な役割です。
ただし、こちらも子ども自身にやりたい気持ちがあることが大前提です。
習い事をやめた方がいい場合
子どもの心理的・身体的負担が大きい
習い事の内容や目標が合わない、指導者と合わないなど、習い事が子どもの心身に大きな負担を与えている場合は、まずは問題を解決するために、指導者ともできるだけ話し合いましょう。
それでもその問題が解決できず、子ども自身がもうやめたいと訴えている場合は、すぐにやめることがおすすめです。
無理に続けさせることが、かえって子どもの健やかな成長を阻害する可能性があります。
もし、子どもが習い事の内容自体は好きだけど、その教室が合わないという場合は、教室を変えて同じ習い事を続けるという方法もあります。
他にやりたいことが明確にある
子どもが他にやりたいことがはっきりしている場合も、思い切ってやめることがおすすめです。
やりたくないことを無理に続けさせるより、子ども自身が本当にやりたいことをやった方が、子どもの幸せや成長につながることは言うまでもありません。
こんなとき親が考えがちなことは、もし新しいことを初めて、すぐまたやめてしまったらどうしよう、ということでしょう。
でも、もしそうなったとしても、「やりたかったことをやってみた」という経験は決して無駄になりません。新しいことへのチャレンジ精神や、多様な体験を養うこともできます。
子どもが習い事をやめる場合の適切な対応【良い親】

子どもの習い事をやめるようとするとき、子どもの成長につながる親の対応は以下のようなものです。
子どもとよく話し合い、本当はやりたい気持ちがあるのか、そうではないのかを聞く
習い事をやめる、もしくは続ける上で、最も大切なのは子ども自身の気持ちです。
本当はもうあまりやる気がないのに惰性で続けていたり、やりたくないのに親の考えや都合に無理に合わせたりしようとしている場合もあります。
子どもとしっかり話し合って、子どもの本当の気持ちを聞き、それを尊重しましょう。
やめた場合のメリット・デメリットを一緒に考える
子どもの気持ちが大切とはいえ、子どもはまだまだ経験が少なく、先を見据える力が不足しています。
やめてから子どもがすぐに後悔してしまうようなことがないように、やめた場合のメリット・デメリットについては、しっかり話し合っておきましょう。
また、やめる場合は親や周囲にもいろいろな不都合があるかもしれませんが、それは仕方のないことです。そのことで子どもが必要以上に罪悪感を抱かないように配慮しましょう。
やめたことを前向きに捉え、本当にやりたいことを探す
人生は長いもの。やりたくないことを無理に続けるより、もっとやりたいことを見つけることが大切だと、やめたことをポジティブに捉えましょう。
他にまだやりたいことが見つかっていない場合は、「もっとやりたいことを一緒に探そう」と子どもの興味・関心を広げるサポートをすることで、親子で前向きな一歩を踏み出せるはずです。
子どもが習い事をやめる場合のNG対応【毒親】

子どもの習い事をやめようとするとき、子どもの成長を阻害する親の対応は以下のようなものです。
親の価値観を押し付ける
「一度始めたなら続けるべき」「続けることに価値がある」など、継続の美徳を無条件に押し付けることは禁物です。
もし、親自身が過去にそれで成功したことがあったとしても、同じことが当てはまるとは限りません。
今の状況や本人の気持ちを冷静に受け止めた上で、一緒に考えることが必要です。
親の夢や理想を押し付ける
「親がバレエが好きだから」「親がピアニストになりたかったから」など、親の理想や夢を子どもに押し付けようとすることもNGです。親の願いが子どもへのプレッシャーになり、自己肯定感を下げてしまう可能性があります。
子どもの人生は子どものもの。子ども自身の理想や夢を尊重しましょう。
「せっかくお金や時間をかけたのに」など親の投資回収について言及する
これまでにかけたお金や時間を引き合いに出して、子どもを責めることは厳禁です。
子どもにはどうしようもないことを言うことは、子どもに罪悪感やプレッシャーを与えることにしかなりません。
また、つい「途中でやめたらもったいない」と考えがちですが、子どもが本当はやりたくないことを、惰性や強制で続ける方がもったいないという考え方もあります。
子どもの習い事を続けるより大切なこととは

日本人の「続けることに価値がある」という考え方には根強いものがあります。
しかし、「とにかく頑張って続けたら成功した」というのは、いわゆる生存性バイアスであり、無条件に適用できるものではありません。
多くの親は、子どもの幸せな人生を望んで、習い事をさせているはずです。
でも、子どもが本当にはやりたくないことを続けさせて、そこに費やした長い時間が子どもにとって幸せではないとしたら、本末転倒ではないでしょうか。
もし、今の習い事をやめて、新しい習い事を始めた時は、ぜひおすすめしたいことがあります。
それは、子どもが「やめたい」と言い出す前に、定期的に親子で習い事について振り返ることです。
「ここまで続けてどうだったか」「どんなことがよかったか」「どんなことが大変だったか」などを定期的に話し合った上で、これからも続けたいか、それともやめて別のことをするか、その都度子どもと一緒に考える機会を設けることです。
現代の習い事には、親の世代よりもたくさんの選択肢がありますし、習い事以外にも、自分でやりたいことに時間を使うという選択もあります。
子どもは今やりたいことができているのか、子どもの本当の気持ちはどうなのか……子どもと一緒に振り返りながら、子どもの幸せや成長につながる時間の使い方を選んでいけるといいですね。
文:征矢里沙
非認知能力を育てるウェビーイング教育雑誌『FQ Kids』編集長。慶應義塾大学総合政策学部にて、多様な教育のあり方を研究。株式会社リクルートを経て「NPO法人いきはぐ」を立ち上げ、「生きる力をはぐくむ」をテーマに全国約100ヶ所以上の学校・園を取材。「生きる力をはぐくむ教育研究家」として、非認知能力を育てる多様な教育に関する編集・執筆・講演等の活動を行う。
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