
日本の国土は南北に長く、春の花々、夏の緑、秋の紅葉、冬の雪景色など季節の移り変わりを楽しむことができます。また、森林、里山、湿地、海洋など多様な環境が存在するため、約9万種類の生き物が生息しています。日本固有の動植物も多く生息していますが、3772種が絶滅危惧種と言われています。なかにはラッコやイリオモテヤマネコなど、誰もが知っている動物も含まれています。日本の絶滅危惧種と言われる生物を紹介し、絶滅の危機に陥った背景についてもみていきましょう。
絶滅危惧種とは
絶滅危惧種とは、地球上から姿を消してしまう危険性が非常に高い、または、すでに絶滅してしまった生物種のことをいいます。世界中の絶滅危惧種の状況を把握するため、国際的には国際自然保護連合(IUCN)によってリストが作成されています。そのリストは、レッドリストと呼ばれ、絶滅の危機に瀕している野生生物の種をリストアップしており、重要な指標となっています。日本では環境省がレッドリストを作成し、絶滅の恐れの程度を以下のカテゴリーに分けて評価しています。
レッドリストのカテゴリー:絶滅の恐れのある種のカテゴリー
絶滅 (EX) | 我が国ではすでに絶滅したと考えられる種 |
野生絶滅 (EW) | 飼育・栽培下あるいは自然分布域の明らかに外側で野生化した状態でのみ存続している種 |
絶滅危惧I類 (CR+EN) ※ | 絶滅の危機に瀕している種 |
絶滅危惧IA類(CR)※ | ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの |
絶滅危惧IB類(EN)※ | IA類ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの |
絶滅危惧II類 (VU)※ | 絶滅の危険が増大している種 |
準絶滅危惧 (NT) | 現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行する可能性のある種 |
情報不足(DD) | 評価するだけの情報が不足している種 |
絶滅のおそれのある 地域個体群 (LP) | 地域的に孤立している個体群で、絶滅のおそれが高いもの |
※絶滅の恐れのある種(絶滅危惧種)
参照(環境省レッドリスト2020公表について:https://www.env.go.jp/press/107905.html)
レッドリストはおおむね5年ごとに見直しを行っています。絶滅危惧種の現状を把握し、保全活動の優先順位をつけることができ、絶滅危惧種に関する情報を広く公開し人々の関心を高めることにも役立っています。
日本の絶滅危惧種
動物の絶滅危惧種を哺乳類、爬虫類など8分類に分け、絶滅危惧種のカテゴリーに属する絶滅危惧I類 (CR+EN) 、絶滅危惧IA類(CR)、絶滅危惧IB類(EN)、絶滅危惧II類 (VU)の一部を紹介します。皆さんがよく知っている人気者のラッコや日本にしか生息しないイリオモテヤマネコなども含まれます。
哺乳類
イリオモテヤマネコ(CR)
生息地:沖縄県八重山諸島西表島のみ
特徴:ネコ科 全身に斑点模様があり胴長で太い尾を持ちます。目の周りにある白い線や丸い耳先が特徴。体長50〜60㎝、体重は4㎏前後。水を怖がらす潜って魚を捕まえます。森林伐採や開発により生息地が減少したことや、道路での交通事故が原因で生息数が減少しています。
ラッコ(CR)

生息地:北大西洋沿岸、日本では北海道の限られた海域
特徴:体長100〜150㎝、体重22〜45㎏。ふわふわの毛皮を持ち、石を使って貝を割ります。主にウニや貝類などの海産物を食べ、仰向きに寝ながら食事をする姿や、手をつなぎ流されないようにする動きが可愛らしく人気ですが、毛皮目的の乱獲により、日本だけでなく世界でもレッドリストに含まれています。海洋汚染や生息地の減少など多くの課題を抱えています。
その他
ジュゴン(CR)、ニホンアシカ(CR)、ツシマヤマネコ(CR)など
鳥類
コウノトリ(CR)

生息地:日本では兵庫県豊岡市を中心に生息
特徴:かつては日本各地の里山で見られた大型の渡り鳥で、体長約120cm、羽を広げると約200cmになります。全身ほぼ白色で翼の先端が黒く、くちばしが長く赤色をしています。水田などの湿地を好み、魚や昆虫などを食べます。木の上に直径2mほどの巣を作るという特徴があります。古くから、日本だけでなく海外でも「コウノトリは赤ちゃんを運んでくる鳥」と言われています。コウノトリは夫婦で協力して子育てをすることから、「子育て」や「家族愛」の象徴として考えられるようになり、また清潔な場所を好むのでそのイメージが「赤ちゃんを運んでくる鳥」と言われるようになった理由と考えられています。
乱獲と水田の減少や農薬の使用などが原因でコウノトリの餌となる生物が減り、日本では、1971年に野生のコウノトリが絶滅しました。その後、人工繁殖や放鳥などの保護活動が進められた結果、現在では、兵庫県豊岡市を中心に、野生のコウノトリが再び繁殖するまでに回復しています。
トキ(CR)

生息地:日本では新潟県佐渡市など
特徴:体調は約75㎝。全身ほぼ白色で長いくちばしを持ち先端が赤いことが特徴です。かつては日本各地の水田や湿地に生息していましたが、羽毛をとるための乱獲と、水田の減少や農薬の使用により餌となる生物が減少したことで、日本では、1981年に野生のトキは絶滅し、2003年に最後の国産のトキが死亡したことで日本のトキは絶滅しました。しかし、中国から個体を借受けし、人工繁殖や放鳥などの保護活動が進められてきました。現在では、新潟県佐渡市を中心に、野生のトキが再び繁殖するまでに回復しています。
その他
ライチョウ(EN)、ハクガン(CR)、ヤンバルクイナ(CR)、ウミスズメ(CR)など
爬虫類
ミヤコカナヘビ(CR)
生息地:沖縄県宮古島市(宮古島、池間島、伊良部島、大神島等)
特徴:日本固有種。体長は約20〜30cmで、細身の体と鮮やかな緑色が特徴です。草地や森林に生息し、昆虫などを餌とします。開発や農薬散布、また外来種による捕食やペット目的での採取・乱獲により、目撃することが難しくなっています。
アカウミガメ(EN)

生息地:日本では主に太平洋側の海岸
特徴:甲羅が赤褐色でずんぐりとした形で、他のウミガメに比べ体に対して頭が大きいことが特徴です。一生のほとんどを海中で暮らし、産卵時にだけ砂浜に上陸します。食用や工芸品目的の乱獲だけでなく、海岸の開発により産卵場所が減少したことと、海洋汚染により生息環境の悪化が原因で絶滅の危機に瀕しています。
その他
アオウミガメ(VU)など
両生類
オオサンショウウオ(VU)

特徴:日本固有種で、スイスで発見された3千万年前の化石と今の姿がほとんど変わっていないため「生きた化石」とも呼ばれる世界最大級の両生類です。体調は最大で1.5mほどになりますが、近年では大きな個体が見られなくなっています。茶褐色の皮膚に黒いまだら模様があり、大きな口と小さな目が特徴です。夜行性で河川の上流に生息しています。人間と同じくらいの寿命を持つと言われています。
生息地である河川の開発により破壊され、水質汚染により環境が悪化したことが原因で、生息数は減少傾向にあり、絶滅の危機に瀕しています。1952年にオオサンショウウオは国の特別天然記念物に指定されているため、国内のどこにいる個体も全て保護の対象になります。
その他
アブサンショウウオ(CR)など
汽水・淡水魚類
タナゴ(EN)
生息地:日本各地
特徴:タナゴは日本固有の淡水魚で、美しい姿と独特の生態で古くから親しまれてきました。ほんの数十年前までは日本各地の河川や湖沼に分布していた魚です。体長は約5〜10cm。種類によって体色や模様が異なり、オスは繁殖期になると婚姻色と呼ばれる鮮やかな色彩を帯びます。タナゴの産卵方法は独特です。外敵に襲われる可能性が少なく常に新鮮な水を得ることができるので、二枚貝の中に産卵します。
河川改修工事や農地開発による生息地の減少、外来種による捕食や水質汚染による生息環境の悪化が原因と考えられます。またタナゴの産卵に必要な二枚貝が減少していることも影響し、近年、多くのタナゴ類が絶滅の危機に瀕しています。
二ホンウナギ(EN)
生息地:日本を含む東アジア。日本では関東以西の本州太平洋側や瀬戸内海、そして九州西岸の河川。
特徴:体長は最大1.3m。細長い体とぬめりのある皮膚をもっています。日本では古くから「土用の丑の日」に鰻を食べる風習があります。その鰻が二ホンウナギです。二ホンウナギは食用として重要な水産資源です。
地球温暖化により海水温度や海流が変わり、二ホンウナギの回遊経路に大きな影響を及ぼしていること、稚魚の過剰な密漁や密輸、河川の開発やダム建設により生息地が減少したことが原因です。ニホンウナギは、2014年に国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅危惧IB類に指定されました。日本では、環境省が2013年に絶滅危惧IB類に指定されています。二ホンウナギの絶滅は、「土用の丑の日」に鰻を食べるという日本文化も消失してしまう恐れがあります。二ホンウナギを守ることは日本文化を守ることに繋がります。
その他
ベニザケ(ヒメマス)(CR)、テッポウウ(CR)など
昆虫類
オオクワガタ (VU)

特徴:堂々とした姿から「クワガタの王様」とも呼ばれている、日本を代表する大型のクワガタムシです。クワガタムシ科の中でも特に人気のある種のひとつです。体長はオスで最大80mm、メスは最大50mmほど。黒い体で光沢があり、太く大きい顎が特徴で力強い印象があります。夜行性で、クヌギやコナラなどの樹液を餌とします。
森林伐採による生息地の減少やペット目的の乱獲により、絶滅の危険が増大しています。
タガメ (VU)
生息地:日本各地の水田などの水辺。
特徴:体長は約4〜7cm。メスのほうが一回り大きく、平たい楕円形の大きな体と強力な前脚が特徴です。鎌のような前脚を使ってカエルやドジョウなどの餌を食べます。かつては日本各地いたるところでよく見られました。
水田の整備により生息地が減少したこと、外来種(アメリカザリガニなど)の影響で生息環境が悪化したこと、販売目的で大量に捕獲されたことにより、絶滅の危機が増大しています。
その他
ゲンゴロウ (VU)など
陸・淡水産貝類
マメタニシ(CR)
生息地:本州から九州にかけて。
特徴:日本固有の小さな淡水生の巻貝。貝殻は殻長13mm、殻径7mmほど。殻は淡黄褐色で鈍い光沢があります。流れのほとんどない湧水や伏流水がある水草、または礫がある水域に生息しています。環境の変化に非常に弱い生物で、微小藻類などを食べます。
河川改修や農地開発により生息地が減少したこと、除草剤や生活排水などによる水質の悪化が原因と言われています。
ハマグリ (VU)

生息地:日本沿岸(主な産地:伊勢湾、瀬戸内海沿岸、千葉県九十九里浜など)
特徴:丸みを帯びた三角形で白色または栗色の貝殻をもちます。淡水が流れ込む浅瀬や砂泥地に生息します。日本の食文化に欠かせない二枚貝で、特に雛祭りのお吸い物には欠かせない縁起物です。さらには、平安時代からの遊戯「貝合わせ」にも使われていました。貝合わせとは、多くの貝殻を並べてひとつの貝殻に合う貝殻を見つける遊びです。古くからみやびな文化として人々の生活を彩ってきました。二枚の殻がぴたりと重なるので、古くから「夫婦円満」の象徴とされています。
埋め立てなどにより干潟環境の悪化や水質汚染の影響で個体数が急減しています。
その他
カラスガイ(EN)など
その他無脊椎動物
カブトガニ(CR+EN)

生息地:日本を含む東アジアの沿岸域に生息。日本では瀬戸内海、九州北部などの沿岸域。
特徴:体長は約60cmで、兜のような硬い甲羅と、剣のように鋭くとがった尾が特徴です。恐竜の時代よりもはるか昔の2億年前から生きてきた生物がカブトガニです。そのことからも「生きた化石」とも呼ばれています。名前に「カニ」とつきますがカニではなく、トンボやセミなどと同じ節足動物に分類されます。現在ではクモの仲間とも言われています。
生息地の遠浅の干潟が工業、農業のために干拓されてしまい、生息地が減少しています。
二ホンザリガニ(VU)
特徴:体長5〜6cm。体色は茶褐色でアメリカザリガニに比べて小柄です。日本の固有種で夜行性で、水草や水中に落ちた枯葉、虫・小魚の死体を食べることから、二ホンザリガニの生息しているところは水がきれいだったと言われています。13〜20度以下の低水温でしか生きることができないため、地球温暖化の影響による水温の変化や、水質のきれいな場所にしか生息しないので、水質汚染の影響により個体数が減少しています。また、外来種により生息地を奪われたことも原因です。
その他
ヤシガニ(VU)など
絶滅危惧種を守るために
この記事では、日本で生きる絶滅危惧種の現状と厳しい環境についてご紹介しました。地球温暖化、森林伐採、開発による影響、環境汚染、外来種の影響など、その原因は様々でひとつだけではありません。
未来に多様な生物を残すために、今日からできることを始めてみませんか?
環境問題に興味を持つ
- ニュースや書籍、インターネットなどを利用し、絶滅危惧種の現状や環境問題について情報を収集してみる。身近な自然に関心を持ち、生物を観察してみる。
- 自然保護団体が主催するイベントなどに参加し理解を深める。
日常生活でできること
- リサイクル素材で作られた製品や、環境負荷の少ない製品を選ぶ。
- 節電節水:電気や水を大切に使い、無駄な消費を減らす。
- 積極的にゴミの分別をしリサイクルを行う。自然へ出かけた際はゴミを持ち帰る。
- 地元の食材を積極的に購入し、輸送にかかるエネルギーを削減する。フードロスに努める。
- レジ袋やペットボトルの使用を控え、マイバッグやマイボトルを持ち歩く。
- ペットや外来種を自然の中に放さない。
- 野生の生き物に触れたり餌をあげたりしない。
- 公共の交通機関を利用する。自転車を利用する。
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