日本最古の歴史書「古事記」。どんな話?いつ作られた?

古事記とは

現存する日本最古の歴史書「古事記」。この書物には日本の国の成り立ちや天皇の歴史が書かれており、日本の歴史を知るうえで重要な存在です。今回は、現役の高校教師であり授業で「古事記」について教えているライターが、学生に教えるように分かりやすく古事記の内容を数回にわたって解説していきます。

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「古事記」が作られた理由と特徴

日本最古の歴史書・古事記はいつ作られた?

古事記は、現存する日本最古の歴史書です。第40代天武天皇が、日本の国の成り立ちや天皇の歴史、さらに地方に言い伝えられてきた神話を後生に正しく残していきたいと考え作成を命じ、その後712年に完成しました。

「一目見れば暗誦し、一度聞けば記憶する」と評判の稗田阿礼(ひえだのあれ)に、天皇家が正しいと認定した物語を覚えさせ、その内容を太安万侶(おおのやすまろ)が書き取ることによって古事記は完成しました。

古事記は「神々の記録」がメイン

古事記は、上巻・中巻・下巻の3巻に別れています。

上巻は、神々のお話が中心です。神々の誕生、天地創世から始まり、多くの神の記録が物語風に描かれています。中巻は、神から人間への転換点に関するお話です。永遠の命を持つ神々が寿命を失い、その子孫である天皇が国を治めていくという内容になります。下巻は天皇の系譜が書かれ、最後は33代の推古天皇のところで終わっています。古事記では、何もない混沌とした世界から、神々が生まれ、国がつくられていきます。そこには登場する多くの神々の活躍がありながらも、最終的には、太陽神アマテラスの子孫が地上を支配し、その子孫たちがやがて天皇となり、現在の日本をおさめているのであるというストーリー展開となっています。

一般的に古事記の物語として広く知られているのは主に上巻の内容で、多くの神々が活動する場面になります。神話なので、もちろん作り話となっている部分も多いですが、中には脈々と受け継がれてきた地域の言い伝えや、史実に基づいているのではないかと思われる内容が盛り込まれていることが特徴です。

荒神谷遺跡 (C) Shimane Prefecture

1つ例を挙げると、1984年に島根県の出雲地方の遺跡で358本もの銅剣が発見されことがありました。かつてないほどの量の銅剣が出土したことで話題となりました。古事記では、スサノオという神が出雲地方でヤマタノオロチという怪物を退治した際に、その怪物の尻尾から剣(草薙剣)が出てくる場面があります。そのため、現実に起こった銅剣の発見と、神話の世界にあるヤマタノオロチのエピソードを結びつけることで、出雲地方は当時の青銅器文化の中心地であり、かつて強大な政権が存在していたことを書き残したのではないかという予測を立てることができるのです。それぞれの神話の物語では、何を伝えようとしたのだろう、と研究されている場面が多くあり、これが古事記の魅力の1つとなっているのです。

天武天皇が古事記作成に込めた思い

古事記作成を命じた天武天皇は、中央集権型の強い国づくりを目標に掲げていました。国内をまとめるだけでなく、東アジアにおける外交も強く意識した政治を行いました。その証拠として、それまでの日本は周辺諸国から「(Wa)」と呼ばれていましたが、天武天皇の頃になると、「日が昇る神聖な場所」という意味を持つ「日本」という呼び方で自らを名乗るようになりました。

また、当時の国の支配者は「大王」(おおきみ)と呼ばれていましたが、これを「天皇」と言い改めたのもこの頃であると言われています。天武天皇は「天皇が統治する中央集権型の国、日本」をアピールしながら国作りを進めていきました。その強い想いを叶えるための大切な事業の1つが、古事記の作成でした。古事記には、天武天皇の「日本を1つにまとめていきたい」というメッセージが込められているのです。

いま古事記が注目されている理由

温泉津温泉 石見神楽 (C) Shimane Prefecture

2012年は、古事記誕生1,300周年になる節目の年でした。古事記に縁のある地域では多くのイベントが行われたことで、古事記ブームのきっかけの1つとなり、アニメ、ドラマ、ゲームなどで古事記の神々を題材にしたものが取り扱われるようにもなっています。

また、グローバル化が進む中で、海外との関わりも盛んになりました。その中で、古き良き日本の魅力を改めて見つめ直したいと考える日本人も増えてきました。古来より伝わる日本の神話を通して、私たちの祖先がいったい何を考え、どのように生きてきたのかを知ることができると注目されています。

古事記は、長い年月を経てもなお、現代社会に生きる私たちに向けて、個人の成長や社会の諸問題に向き合うためヒントを与えてくれると言われています。神話の中には、家族、愛、正義、誠実さといった普遍的なテーマが多く含まれており、「いかに生きるべきか」という精神的な価値観を提供している点においても注目を集めています。

近年は、日本を訪れる外国の方も増えてきた中で、神社巡りは日本観光の魅力となっているようです。そもそも神社とはどのような場所でしょうか。日本人にとって神社はなぜ大切な場所なのでしょうか。そのような疑問についても、古事記を知ることでいっそう理解が深まります。

この記事のシリーズでは、私がふだん高校で社会科を指導している経験を踏まえて、古事記の主な神々のストーリーと魅力をお伝えしていきます。実は日本人の中にも、古事記の物語を断片的に聞いたことはあっても、最後まで読んだことがある人は多くないと思います。日本の神々が織りなす、魅力たっぷりの物語と、さらにそれらの物語に込められたメッセージや見方・考え方についても紹介していきますので、どうぞごゆっくりお楽しみください。

古事記の神々と世界観。基礎知識について解説

これから古事記の物語を紹介していくにあたり、はじめに知っておくと読みやすい基礎的な知識をご紹介してまいります。

1.古事記には様々な神様が登場する

石見神楽 (C) Shimane Prefecture

日本は「八百万の神(やおよろずのかみ)」という言葉があるように多神教の国です。身の回りのすべてのものに神が宿っていると考えています。ちなみに、神様の数え方は「柱(はしら)」を使います。柱は地面から天に向かって垂直に伸びているので、神が降りてくるための通り道としての役割を果たすと考えられてきました。

また、古来より神は自然物に宿るとされてきましたが、特に大木には神聖な神が宿るものとして重要視されてきました。現在でも、世界遺産になっている屋久島の縄文杉や、明治神宮の境内にあるクスノキなどはご神木として、祈りの対象となっています。日本の昔の建築では、家の中心にある最も重要な柱のことを「大黒柱」といいます。このように日本では、木や柱が神様と強い関わりがあるのです。

ちなみに、アニメ『鬼滅の刃』で登場する鬼殺隊の最強の剣士たちのことを「柱」と呼んでいるのも、彼らの肉体と精神、鍛えあげられた技が、神がかっているところに由来しているものと考えられます。

2.日本の神様は人間味であふれている

石見神楽 (C) Shimane Prefecture

日本の神様の最大の特徴の1つは、人間味にあふれていることです。はじめから完成されている存在ではなく、未熟で足りないところを持っています。性格も個性的で、喜怒哀楽の感情が大変豊かです。ときに失敗しながらも、少しずつ成長していく様子が描かれており、あるときは出会いと別れの中で涙を流し、あるときは嫉妬の気持ちから意地悪をし、感情を抑えきれずに大暴れする神もいます。

それでも古事記全体の流れを通してみると、誰かの過去の過ちに対しておおらかに受け止め、許してあげようというどこかのんびりとした雰囲気が漂っているように感じます。日本には「水に流す」という言葉があります。過去の過ちに対して、水を流してさっぱりとするように忘れて元通りにしてあげようというものです。このような感情が日本人の中に古来より受け継がれているのも、もしかしたらルーツは古事記にあるのかもしれません。

3.最高神は女性、太陽神アマテラス

出雲神楽 (C) Shimane Prefecture

古事記では308柱の神が登場します。その中で神々の頂点に君臨するのが太陽神アマテラスです。

アマテラスはイザナギの禊ぎから誕生した女性の神で、古事記の物語においても圧倒的な存在感を放っています。古来日本では、女性は出産によって命を生み出す存在であることから神聖視されており、縄文時代の土偶(おまじないのための土の人形)も、女性を形取ったものが多く作られてきました。

当時の日本は農耕民族であり、豊作を祈ってお祭りをする際に、生命の象徴である女性が大切な役割を果たすこともあったようです。また、弥生時代(紀元前4世紀~3世紀頃)に栄えた邪馬台国には、女王・卑弥呼が国をおさめていたという記述が中国の歴史書に残っています。女性は特殊な能力を持っていることから、呪術やおまじないをすることで政治をしていたと考えられているのです。

現在でも、神社の巫女さんは女性が担当するように、女性は神の世界と人間の世界をつなぐ存在といえるかもしれません。

4.古事記で描かれる3つの世界

古事記には大きく3つの世界が存在しています。

  • 高天原(たかまがはら):神々が住む天界の世界
  • 葦原中国(あしはらのなかつくに):人々が住む地上の世界
  • 黄泉の国(よみのくに):死者が住む世界

また、高天原に住む神を「天つ神」(あまつかみ)、葦原中国に住む神を「国つ神」(くにつかみ)と呼びます。古事記の物語では、「国つ神」が葦原中国において出雲を中心として国作りを完成させるのですが、その後、高天原からアマテラスの使いである「天つ神」が地上に降り立ち、国を譲り受ける(国譲り)という展開になっています。

このことは、高天原を日本の中央政権に、葦原中国を地方の権力者に喩えながら、日本全体がアマテラスの子孫であるところの天皇のもとで、中央集権的に1つにまとめあげられていく様子を描いていると言われています。

5.黄泉の国の概念と掟

黄泉比良坂(島根県松江市)(C) Shimane Prefecture

古事記の中では神が死ぬと黄泉の国へ行くルールになっています。

黄泉の国と葦原中国は、黄泉比良坂(よもつひらさか)という坂でつながっており、その入り口は大きな岩でふさがれています。また、黄泉比良坂は現在の島根県松江市に今も残っています。

当時の日本においては、山は死体置き場とされていたこともあり、死者や幽霊が多く住んでいるというイメージを持っていました。そのため、黄泉の国は地上よりも標高の高いところという認識があったようです。葦原中国から坂をのぼっていくと黄泉の国があり、その入り口は簡単には行き来できないように大きな岩で隔てられています。このようなイメージを持って、物語を読んでみて下さい。

なお、日本では死者が生き返ることを「蘇る(Yomigaeru)」と言いますが、これは「黄泉(Yomi)の国から帰る(Kaeru)」ことを表しています。古事記の世界では、神が死ぬと一度は黄泉の国に行きますが、特殊な力を持った神を借りて、実際によみがえる場面も出てきます。神々は生と死という試練を繰り返しながら、成長していくというメッセージもここには込められているのです。

日本最古の歴史書、古事記を読んでみよう!

今回は日本最古の歴史書である古事記について、作成された背景と注目されている理由についてお話致しました。また後半では古事記の読む際の基礎知識についてご説明させていただきました。

いよいよ次回より、神話の内容を紹介していきます。個性たっぷりの神々が登場してきますので、どうぞ引き続きお楽しみください。

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<参考文献>

  • 日本の神話①天岩戸西野綾子ひくまの出版
  • 日本の神話②ヤマタノオロチ西野綾子ひくまの出版
  • 日本の神話③イナバの白ウサギ西野綾子ひくまの出版
  • 日本の神話④地のそこの国西野綾子ひくまの出版
  • 日本の神話⑦コノハナサクヤヒメ西野綾子ひくまの出版
  • 日本の神話⑩ヤマトタケル西野綾子ひくまの出版
  • 図解いちばんやさしい古事記の本 沢辺有司 彩図社
  • 面白いほどよくわかる古事記 かみゆ歴史編集部 西東社
  • 日本の神話 与田凖一 講談社青い鳥文庫
  • 日本の神話 松谷みよ子 のら書店
  • 日本の神様 絵図鑑 2 みぢかにいる神様 ミネルヴァ書房
  • 日本の神様 絵図鑑 3 暮らしを守る神様 ミネルヴァ書房

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