平安時代の京都や朝廷を中心に超能力的な力で活躍していた陰陽師、安倍晴明(あべの・せいめい)。小説やアニメ、映画などに登場する姿からは実在していたことが信じられないほど、さまざまな奇跡的な逸話が残されていますが、実際はどんな人物だったと思いますか?当記事では、そんな彼の謎に迫るため、儀式や占いを行い、国家運営にまで影響を及ぼした安倍晴明の生涯や業績、伝承などを陰陽道の魅力も含めて紹介します。
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陰陽師とは何者?陰陽道は何か?
陰陽師について
平安時代、宮廷において重要な役割を果たしたのが「陰陽師」と呼ばれる官職です。天文学や易学を駆使し、天文現象や吉凶を占うことで国家運営や政治的判断に貢献していました。陰陽師の中でも、安倍晴明は日食や雨乞いの儀式を成功させたことから朝廷の信頼を得たといわれています。
また、式神を使役し、疫病神の鎮圧や災厄の除去も陰陽師の仕事でした。その一例として、一条天皇の外出時に安全を守るために安倍晴明が行った「反閇」と呼ばれる邪気を祓う秘術があります。このように陰陽師は宮廷儀礼や国家的危機管理において不可欠な存在だったのです。
陰陽道について
陰陽道は中国から伝来した陰陽五行説と天文暦法とを結合させて、日本で独自に発展した思想と実践の体系です。平安時代には、陰陽道に通じた陰陽師が宮廷儀式や国家運営に深く関与し、天体観測や暦作成、占いを通じて吉凶を占いました。ちなみに陰陽五行説とは、陰陽説と五行説が統合されたもの。相反する「陰・陽」が互いに作用しあって万物が造り出されるという考えが陰陽説。自然界は五行(木・火・土・金・水)の要素で成り立ち、その変化によって天地の変異や人事の吉凶を説くのが五行説です。また、陰陽道は仏教や修験道とも影響し合いながら発展し、1870年に政府から禁止された後も小説やマンガ、映画など、日本文化に大きな影響を与えています。
『陰陽師0』に登場する安倍晴明はどんな人物?生涯と業績など
安倍晴明 (921-1005) は平安時代に活躍した陰陽師であり、実在の歴史的存在でありながらさまざまな伝説や物語のモデルになった人物です。主に呪術や占い、天文学を専門とし、「式神」を操る姿が『大鏡』や『今昔物語集』などの古典文学に描かれています。ちなみに式神とは、人の目に見えなかったり、変幻自在に姿を変えたりして陰陽師に仕える鬼神。安倍晴明は、式神を自在に操ることで知られ、呪詛に活用したほか、家の戸締まりなど身の回りのちょっとした処理に利用していたといわれています。
そんな安倍晴明が陰陽寮で天文学や暦学を学生として学んだのは、39歳の頃。そして、陰陽師として『本朝世紀(ほんちょうせいき)』という歴史書に登場するのが46歳。さらに天文博士として貴族が書いた日記に登場するのは51歳のときでした。まさに大器晩成の傑物といえる晴明は、それから84歳で寿命を迎えるまで優れた陰陽師として活躍しました。
長年に渡り精力的に活動した安倍晴明の業績にはさまざまなものがあり、なかでも、占いや邪気を払う逸話がたくさん残されています。そのひとつが、花山天皇の頭痛の原因を前世の頭蓋骨が岩のはざまに落ち挟まっていることだと見抜き、頭蓋骨のある場所まで的中させたこと。その頭蓋骨を取り出し、広い場所に置かれると、花山天皇の頭痛は解消されたといわれています。晩年には、雨乞いの祈祷に成功。天皇から褒美を賜ったことも当時の貴族の日記に記されています。
安倍晴明の伝承
安倍晴明の母親はキツネ?
安倍晴明の出生は謎に包まれています。一説には両親がいない「化生ノ者(けしょうのもの)」とされ、また他の一説には父や祖父が朝廷の官吏だったこととされています。そういった伝承のひとつが、母を狐とする逸話。そのもととなったと考えられるのが、「信太妻」ともよばれる「葛の葉物語」。安倍晴明の母が晴明の父、摂津の国の安倍保名(あべのやすな)に助けられた狐は、恩返しの為に、人間の女性に姿を変え、保名の前に現れたという、人形劇の浄瑠璃や歌舞伎で大ヒットした伝説です。この伝説が、安倍晴明の「狐の子」という話を有名にし、後の物語や文学に影響を与えたといわれています。
※摂津の国:大阪府の北西部と兵庫県の東部にまたがっていた国
式神を自在に操り、恐ろしい魔物を調伏した
陰陽師が使役する鬼神である式神を自在に操ることで知られていた安倍晴明。操り方は実に多彩で、日常の雑務から呪詛、さらには恐ろしい魔物の調伏まで多岐にわたっていました。あるときは、二人の式神を使い熊野の魔物を封じ込め、またあるときは、やはり二人の式神とともに祈禱を行なって疫病神を鎮めたといわれています。さらに、晴明の式神使役の力が単なる術者を超えた話として残されているのが、九尾の狐「玉藻前」を調伏(ちょうぶく)※。この働きにより天皇を苦しめていた災厄を退けたといわれています。
※調伏:術によって魔物を撃退すること
陰陽師・蘆屋道満との関係
蘆屋道満(あしや・どうまん)も安倍晴明と同じ時期に存在した人物でした。伝承では安倍晴明のライバルとして描かれていますが、そのひとつが天皇の命により箱の中身を占う法力争い。この試合では道満が「大柑子(おおこうじ:今の夏ミカン)が16個」と答える中、晴明は大柑子を鼠に変化させ「鼠が16匹」と占い、勝利しました。この対決では、負けた方が弟子になる約束だったため、道満は晴明の弟子となります。
しかし、道満との因縁はこれで終わらず、後年の伝説では、晴明の妻を愛すようになった道満が晴明を殺害。ところが、晴明の師匠である伯道が呪術で晴明を蘇生。そうして最終的に晴明が、道満を討ち取ってこの因縁が終わりを迎えます。この伝承以外にも晴明と道満との関係を描いた作品が多く、そのほとんどで悪役となっているのが道満です。しかし、それらが歴史書や貴族の日記に記されているわけではないため、本当に悪人だったかどうかは想像するしかありません。あなたはどんな道満像を描きますか?
安倍晴明が登場する作品
安倍晴明が登場する作品は、古典文学から近年の小説、浄瑠璃や歌舞伎の演目、漫画、映画など多岐にわたります。古典では、平安時代末期に成立したとみられる説話集『今昔物語集(こんじゃくものがたりしゅう)』や成立が鎌倉時代前期とみられる説話集『宇治拾遺物語(うじしゅういものがたり)』があります。
江戸時代中期には、浄瑠璃や歌舞伎で『芦屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)』初めて上演されました。今でも安倍晴明が「狐の子」という伝承をもとに描かれた「葛の葉」は人気の演目となっています。
そして、安倍晴明の生誕から1100年以上経った今でも、安倍晴明は小説や漫画、映画など多くのメディアに登場。現代の小説でもっとも有名な作品のひとつが小説家の夢枕獏(ゆめまくらばく)の書いた長編小説『陰陽師』です。
安倍晴明を題材にした人気作品を紹介
アニメ:Netflix『陰陽師』
平安時代を舞台にした怪奇ミステリー、Netflixのアニメ『陰陽師』。「憧れ」「嫉妬」「執着」といった負の感情が強まった京の都で起こっていたのが、欲望に飲まれた人間が鬼になる事件。そんな鬼になった人間たちと対峙する陰陽師の安倍晴明とその相棒の貴族、源博雅の姿が描かれた物語です。
この作品の魅力のひとつが、晴明と源博雅のキャラクター。都で一番の天才的な陰陽術の使い手でありながら、人や世の中のできごとに興味をもたない変わり者の晴明。一方、特別な力をもたないものの、正義感が強く情に厚い源博雅。この2人が力を合わせ、都で頻発する奇怪な事件に挑みます。その行く手を阻むのが流れ者の陰陽師・蘆屋道満。鬼との激しい攻防に加え、道満との激しいぶつかり合いといった迫力あるバトルと平安時代の神秘的な世界観が楽しめる作品です。
アニメ:陰陽師・平安物語
アニメ『陰陽師・平安物語』は、スマートフォン向けゲームアプリ『陰陽師本格幻想RPG』を原作とした1話4分の短編アニメです。舞台は平安時代の京の都。昼は美しい都ですが、夜は妖怪が跋扈する不気味な世界になります。そんな平安京で天才陰陽師として広く知られる安倍晴明のもとを訪れる妖怪たち。主人公の晴明が、式神たちや多彩な妖怪とともに奇妙ながらも温かな日常を送ります。
各話で展開されるのは、個性豊かな妖怪たちのエピソード。ゲーム内でも人気のかぐや姫が恋に悩むことから始まるお話や世界征服のために戦う同志を探す金魚姫など、妖怪たちの悲喜こもごもの日常が平安京を背景に繰り広げられます。その他、酒呑童子や茨木童子など、日本で有名な鬼も登場。ほのぼのとした物語が魅力です。
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映画:陰陽師0
最強の呪術師・安倍晴明の秘められた学生時代を描いた映画『陰陽師0』。物語は、凶悪な呪いと強大な陰謀に挑む若き晴明と音楽好きの貴族・源博雅を中心に展開。呪術の天才ながら孤立していた晴明が、博雅と共に皇族の女性を襲う怪奇現象の真相を追い、平安京を揺るがす事件に立ち向かいます。
原作者の夢枕獏が全面協力した本作では、平安時代版ホームズ&ワトソンをイメージした友情と信頼の物語という一面が楽しめるのも魅力。迫力のVFXで描かれる水龍のシーンや羽生結弦のスケートに着想を得た華麗なアクションシーンも見どころ。平安時代の呪いに立ち向かう晴明の姿は、不安の多い現代に生きる私たちに希望と勇気を与えてくれます。
<参考文献>
・志村 有弘、門田 博『陰陽師 安倍晴明 』(角川ソフィア文庫、1999年、全240ページ)
・菅原正子『占いと中世人―政治・学問・合戦』(講談社現代新書、2011年、全238ページ)
・大鏡|駒澤大学[一九]安倍晴明、退位を感知 式神を使ふ https://www.komazawa-u.ac.jp/~hagi/txt_ookagami.TXT
・陰陽師 安倍晴明公 | 五方山 熊野神社 https://jinjya.kumano-kids.com/?page_id=2
・晴明直系 陰陽道 途絶の危機 平安から1000年後継なく:東京新聞デジタル https://www.tokyo-np.co.jp/article/17679
・巻19第24話 代師入太山府君祭都状語 第廿四 [やたがらすナビ] https://yatanavi.org/text/k_konjaku/k_konjaku19-24
・巻24第16話 安倍晴明随忠行習道語 第十六 [やたがらすナビ] https://yatanavi.org/text/k_konjaku/k_konjaku24-16
・巻24第19話 播磨国陰陽師智徳法師語 第十九 [やたがらすナビ] https://yatanavi.org/text/k_konjaku/k_konjaku24-19
・式神をご存知でしょうか?|晴明神社 https://www.seimeijinja.jp/?p=8969
・和泉の伝説/和泉市 https://www.city.osaka-izumi.lg.jp/school/esch/kitaikeda/school/densetu.html
・日本古典文学摘集 宇治拾遺物語 https://www.koten.net/uji/
・芦屋道満大内鑑~葛の葉 | 歌舞伎演目案内 - Kabuki Play Guide - https://enmokudb.kabuki.ne.jp/repertoire/2222/?tab=arasuji
・公演検索結果 - 歌舞伎公演データベース https://kabukidb.net/search?pid=280
・安倍晴明公 生誕1100年記念行事 | 安倍文殊院 https://www.abemonjuin.or.jp/news-seimei_1100/
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