アニメ大国の日本。その題材は多岐に渡りますが、歴史ものは人気ジャンルの一つ。中でも幕末(江戸幕府の末期)は近代日本が生まれる前夜の激動の時代であり、さまざまなタイトルが生み出されてきました。そんな幕末を舞台とするアニメや漫画によく登場するのが「新選組」。『銀魂』『るろうに剣心』など人気作でも新選組メンバーをモチーフにした人物が活躍します。複雑な政争に巻き込まれながら一途に戦い抜き、 “最後のサムライ”との呼び声も高い彼らについて、分かりやすく紹介しましょう。
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新選組とは?幕末を駆け抜けた若者たちの物語
幕末の動乱期、新選組が誕生した背景
「幕末」と呼ばれる時代が始まる起点となったのは、1853(嘉永6)年の「黒船来航」。鎖国していた日本を開国させるため、アメリカからペリーがやってきた事件です。
これをきっかけに、「天皇を敬え」「外国人を追い払え」という尊王攘夷運動が京都で盛んになりました。「天誅」(天の裁き)と言っては、開国に比較的前向きな幕府側の人間を暗殺する事件が増え、京都の治安は悪化の一途をたどります。
これを取り締まるために作られたが、後の新選組。当初は江戸から京都へ向かう14代将軍・徳川家茂(とくがわいえもち)を護衛することを目的に、「浪士組」(「浪士」とは主人を失った武士)という名で広く募集が行われました。
新選組の結成と役割
そこで名乗りを上げたのが近藤勇や土方歳三たち、「天然理心流」の道場のメンバーです。天然理心流は彼らが育った多摩地方(東京都の西側)にある剣法の一派。主流ではないため、“いも剣法”と蔑まれたとか。他にも僧、やくざ、町人など、腕に覚えがある約300人が江戸に集まったそうです。
しかし、浪士組は京都に到着してから分裂。と言うのも、リーダー格にある人物が尊王攘夷の考えを持っていたためです。それと別れて京都に残った近藤勇や土方歳三らを含むグループは、藩主が京都守護職を務める会津藩(現在の福島県会津若松市を中心とする)の預かりとなります。そして、壬生村に屯所を設けて「壬生浪士組」と名乗るように。京都の人々には「壬生浪(みぶろ)」と呼ばれ、恐れられていました。
彼らは1863(文久3)年「八月十八日の政変」(尊王攘夷派を京都から追放するクーデター)で初陣を果たし、功績が認められて朝廷から新選組という名前をもらいます。その本業はあくまで京都の治安を守るための市中見廻り。軍事活動ではなく、警察のような役割を果たす活動でした。
サムライ文化との繋がり
新選組の名を世間に知らしめたのが、1864(元治元)年の「池田屋事件」です。京都を火の海にするという尊王攘夷派による恐ろしい計画があり、これを未然に防ぐことに成功しました。また同年、尊王攘夷派である長州藩(現在の山口県)が武力行使に出た「禁門の変」に参加。この他にもさまざまな働きが認められ、1867(慶応3)年に幕臣(江戸幕府直属の家臣)、つまり武士の身分となったのです。
壬生浪士組の発足以来、組織を維持するにあたり厳守された規則の一つに、「武士道に背くことをしてはいけない」というものがありました。違反した者は切腹をしなければなりません。切腹は自ら腹を切るという勇気が必要な行為であり、武士にとって名誉のある死に方とされていました。
江戸時代は平和が長く続いた時代です。戦いを知らない武士が武士らしくなくなり、その多くが江戸幕府を見捨てていく中、新選組はより武士らしくあろうとしました。彼らは幕府の最期となった「戊辰戦争」まで忠義を通して戦ったのです。それはまさに古き良きサムライ文化でした。
新選組の主なメンバー
近藤勇:新選組の魂
近藤勇は言わずと知れた新選組局長。1834(天保5)年、現在の東京都調布市に生まれました。裕福な農民の家で、父は武芸や学問に力を入れていたと言われています。兄と共に天然理心流を学んだ彼は、その腕が見込まれて同流派の養子となり、4代目を継ぎました。
彼の剣術は“気迫の剣”。池田屋事件では20数人を相手に約2時間戦い続け、屋内に踏み込んだ隊士4人の内、彼だけ無傷だったと伝わります。しかし、戊辰戦争で敗戦後、斬首刑に。
土方歳三:鬼の副長
近藤勇と同じく裕福な農家に生まれた土方歳三。役者のような顔立ちで女性にとてもモテたと言われます。実際、残された写真を見ると、現在でも通用するイケメンっぷり。
一方で、新選組の“鬼の副長”と呼ばれる人物です。組織の規律を破った者は容赦なく処罰し、幹部であろうが切腹を言い渡すことも。しかし、こうして隊士たちを律し、新選組を強くたくましいサムライ集団に仕立てたのも彼なのです。戊辰戦争で被弾して戦死。
沖田総司:天才剣士
新選組ナンバーワン剣士として知られる沖田総司。白河藩(現在の福島県白河市)藩士の長男で、天然理心流の道場に内弟子として預けられました。その剣技は天才的。特に三段突きが得意で、目にも止まらぬ速さだったそうです。
そんな彼は新選組の一番組長として活躍しましたが、慶応4(1868)年に若くして結核で死去。このため、アニメなどでは色白の美男子として描かれがち。
斎藤一:一撃必殺の鬼才
御家人(江戸幕府直属の家臣団の一種)の子として生まれた斎藤一は、一説によると、沖田総司以上の剣の腕前を持っていたと評されます。実際、新選組で三番組長を務め、撃剣師範も任されました。敵と通じた者やスパイを暗殺する役を担うことも多く、たった一撃で相手を仕留めたとか。
明治維新後は警視庁に入り、1877(明治10)年には日本最後の内戦とされる「西南戦争」に参加。数々の修羅場をくぐり抜けた彼は長生きし、1915(大正4)年に亡くなりました。
新選組と現代文化
新選組が現代に語り継がれる理由
新選組は戊辰戦争の敗者である幕府側だったため朝敵とされ、ただの人殺し集団と言われるようになりました。しかし、時が立つにつれて平民が武士に劣らない忠誠を尽くし、真の武士道を生きてみせたと再評価されるように。それは戦時体制に向かう当時の日本政府にとって好都合だったようです。
第二次世界大戦後は、数々の歴史小説を生み出した作家・司馬遼太郎によって近藤勇や土方歳三ら個性的なメンバーがクローズアップされ、一種のサクセスストーリーとして小説やドラマで描かれるようになりました。現在でもアニメや漫画などさまざまな作品に新選組が登場します。
新選組が登場するアニメ
『薄桜鬼 ~新選組奇譚~』
2008(平成20)年に第1作目が発売された女性向け恋愛アドベンチャーゲーム。幕末という激動の時代に、父を捜すため一人で京都に訪れ、その行方を新選組と共に追うことになった少女の物語です。
新選組をモチーフとしながら、鬼や吸血鬼などのファンタジー要素を組み込んで大人気に。テレビアニメや劇場版アニメ、舞台、ミュージカル、イベント、コミックスと、多彩なコンテンツが展開されています。
- 公式HP:薄桜鬼総合サイト https://www.otomate.jp/portal/hakuoki/
『銀魂』
2004(平成16)年より漫画雑誌『週刊少年ジャンプ』で連載されていた大人気漫画。宇宙人の来襲で価値観が変わってしまった江戸を舞台に、ギャグにアクション、人情や絆も詰め込んだSF時代劇です。新選組の近藤勇や土方歳三らをモデルとした「真選組」が登場します。
コミックスシリーズは世界累計発行部数7300万部。2006(平成18)年から2018(平成30)年までテレビアニメ計367話が放送されました。さらに劇場版アニメが公開。実写映画も大ヒットしています。
- 公式HP:「銀魂」20周年記念サイト https://anime-gintama.com/
『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』
幕末の動乱期に“人斬り抜刀斎”と恐れられた尊王攘夷派のサムライ・緋村剣心が新しい時代を生きる物語です。沖田総司や斎藤一をモデルとするキャラクターが登場します。
1994(平成6)年に漫画雑誌『週刊少年ジャンプ』で連載を開始し、1996(平成8)年にはテレビアニメ化。以降もOVA(アニメのオリジナルビデオ)の公開や実写映画化など数々の展開を経て、現在は『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚・北海道編-』が漫画雑誌『ジャンプスクエア』で連載中です。
- 公式HP:TVアニメ「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」https://rurouni-kenshin.com/
『青のミブロ』
漫画雑誌『週刊少年マガジン』で連載中の人気漫画。幕末の京都を舞台に、心優しく正義感が強い少年の視点から新選組の生き様を描く歴史青春活劇です。タイトルにある「ミブロ」とは、新選組がその前身、壬生浪士組であった頃のあだ名。
2024(令和6)年10月にテレビアニメ化され、2025(令和7)年1月より第2クールの放送が始まりました。今最もホットな新選組を題材とするアニメ&漫画の一つです。
- 公式HP:青のミブロ【TVアニメ】https://miburoanime.com/
新選組ゆかりの地巡り
壬生寺(京都府)
991(正暦2)年に創建。古来よりの地蔵信仰とともに、厄除・開運の寺として庶民の信仰を集めました。重要文化財を含む多数の寺宝を今に伝える、由緒ある寺です。幕末、壬生寺は新選組隊士たちの訓練場として利用されました。境内東方にある池の中の島は「壬生塚」と呼ばれ、近藤勇の胸像と遺髪塔、隊士の墓などがあります。売店では新選組オリジナルグッズを販売。
壬生寺
- 住所:京都市中京区壬生梛ノ宮町31
- アクセス:阪急電鉄大宮駅または京福電鉄四条大宮駅より徒歩約10分
- 営業時間 :8:30~17:00(新選組遺跡・売店は9:00~16:00)
- 公式HP:https://www.mibudera.com/
<参考文献>
・佐藤文明、ふなびき かずこ『新選組 イラスト版オリジナル』(現代書館、2003年、全174ページ)
・田中ひろみ『最後のサムライ! 新選組入門』(幻冬舎、2004年、全119ページ)
・『幕末剣豪列伝99(フタバシャの大百科)』(双葉社、2014年、全191ページ)
・菊地明『新選組 粛清の組織論』(文藝春秋、2016年、全263ページ)
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