日本の「漆器」の特徴。越前、輪島塗、紀州、石川など産地別の魅力

日本 漆器
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英語で「JAPAN」と呼ばれる、日本を代表する伝統工芸品「漆器」をご存じですか?漆器は、漆の樹液である漆液を木の器に塗り重ね、美しい光沢をだした高級感のある器です。当記事では、使い込むほどに光沢と透明感が増すことから、育てる食器ともいわれる漆器をご紹介。漆器の魅力を紐解いていきましょう。

日本の漆器の特徴

日本 金沢漆器
金沢漆器 Copyright: Ishikawa Prefectural Tourism League
日本 越前漆器
越前漆器 (C) Fukui Prefectural Tourism Federation

木の器に漆の木の樹液(漆液)を塗り重ねることで、独特の光沢と美しく高級感のある器になる漆器。英語で「JAPAN」とも呼ばれてきた、日本を代表する伝統工芸品のひとつです。また、漆には強い防腐・抗菌作用があり、強度を高める効果もあるため、職人が丁寧に作り上げた漆器は、美しいだけでなく軽くて丈夫なのも特徴の一つ。

産地は日本各地に点在していますが、器の形や漆の塗り方、装飾などの特徴が産地ごとに異なります。その理由として考えられるのが、各産地で育つ木の違いと職人や漆器作りを庇護したその地の支配者のこだわりなど。こうしたさまざまな理由が背景となって、距離的に近い産地であってもまったく異なる特徴をもつ漆器が受け継がれています。

漆器の工程

漆器にはお手頃価格のものから高級なものまでありますが、その違いは職人の工程によって決まります。漆器の製造工程は、大きく分けて4つ。各工程のなかでもさらにいくつもの段階がありますが、漆器の特徴を大きく変えるのは、この4つの工程です。この工程を知っておくと、本物との違いが見えてくるかもしれません。

木地作り

日本 漆器 木地作り
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木地とは、漆を塗る前の白木の状態の器で、この木地を作る人を木地師といいます。木地作りには適した木とそうでない木があり、日本では古くから、木肌がきめ細かで滑らかな杉やヒノキ、松、ケヤキ、トチなどの針葉樹が使われてきました。

下地作り

日本 漆器 下地作り
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下地作りとは、漆を本格的に塗る前の強度を高める作業。その方法は産地により異なります。たとえば、木地の割れ目に生漆(きうるし)と木粉を混ぜたものを塗り込んだり、その土地の土や火山灰などを焼いた粉を生漆に混ぜて塗ったり。漆器の強度は、これらの作業にかかっているので、漆器を買う際は、この作業をしっかりしているかどうか確認することをおすすめします。

塗り

日本 漆器 塗り
山中漆器 Copyright: Ishikawa Prefectural Tourism League

漆器の主な工程が塗りの作業。塗りの技法は多彩で、特定の産地に伝わる技法もあるため、産地などの特徴をもっとも大きく分ける工程です。多くの場合、下塗り、中塗り、上塗りの3つの工程があり、装飾をしない場合、塗りで作業は終わります。この後、さらに光沢をだしたり、手触りをよくしたりするには、呂色仕上げや花塗りなどの仕上げ行います。

装飾

日本 漆器 装飾 蒔絵
加賀蒔絵 Copyright:Kanazawa City

漆器の装飾技法は、大きく分けて蒔絵(まきえ)、箔絵(はくえ)、沈金(ちんきん)、螺鈿(らでん)の4種類。いずれも金粉や銀粉、金箔、銀箔、色漆、螺鈿などを使って文様を描くもので、華やかなものや芸術性の高いものが多く見られます。

日本の漆器の歴史

日本では縄文時代から漆器が使われてきました。世界最古級のものでは、約7,500〜7,200年前の漆塗りの櫛の破片が出土しています。8世紀にはさまざまな技法が生まれ、8世紀後半~12世紀には蒔絵や螺鈿などの加飾の技法が進化し、漆器には貴族たちが好む豪華な装飾が施されていきました。

12世紀末からは武士、僧侶たちの日常使いの器として普及。16世紀にはヨーロッパに輸出され、蒔絵や螺鈿の漆器が数多く輸出されました。17~19世紀の江戸時代には庶民にも使われるようになり、大きく発展。現代では海外のコレクターからの人気が高く、美術品的価値が評価されています。

伝統的工芸品としての漆器の生産地

伝統的工芸品に指定されている漆器の生産地は、北は青森県の津軽塗や岩手県の浄法寺塗、南は沖縄県の琉球漆器と日本全国で20カ所以上あります。

なかでも、石川県は江戸時代から藩主によって漆器が庇護されてきたため、漆器が盛んに作られてきました。そのため、石川県だけで有名産地が3カ所もあり、「木地の山中」「塗りの輪島」「蒔絵の金沢」という言葉もあるほど、特徴的な漆器が生み出されています。

日本三大漆器と日本四大漆器

日本三大漆器として高い人気を誇る漆器が「会津塗」と「紀州漆器」、「輪島塗・山中漆器」。「輪島塗」と「山中漆器」はどちらも石川県内に産地があるため、両方合わせて日本三大漆器のひとつに数えられますが、それぞれ異なる特徴をもちます。また、日本三大漆器に、「越前漆器」を加えたものが、日本四大漆器です。

会津漆器(福島

日本 会津漆器 福島

福島県会津地方で作られる会津漆器。特徴は、塗りの美しさと蒔絵などの加飾の美しさ。そして、水がしみ込みにくく、湯や酸、アルカリにも強く丈夫なこと。高度な技術が要求されるさまざまな上塗り技法が使われますが、なかでも代表的なものが、油を加えて光沢を出す「花塗(はなぬり」。

加飾は、漆を含ませた筆で絵を描き、乾燥の具合を見ながら消粉(けしふん)という最も細かい金粉を真綿で蒔きつける「消粉蒔絵」が会津漆器を代表する技法です。その技法を使って描かれる松竹梅や破魔矢といった縁起の良い絵が会津絵。会津漆器の代表的な文様で、青や黄色の漆で華やかな色合いが魅力です。

紀州漆器(和歌山

日本 紀州漆器 和歌山
Photo Credit: Wakayama Tourism Federation

1400年頃から和歌山県海南市の黒江地区を中心とした産地で、受け継がれてきた紀州漆器。別名黒江塗りともいわれ、江戸時代から実用性の高い器として愛用されてきました。その特徴は、シンプルな意匠と丈夫さ。一般的な漆器と異なり、紀州漆器では下塗りに柿渋(かきしぶ)や膠(にかわ)を使用して貴重な漆を節約しつつ丈夫に仕上げます。

また、根来寺(ねごろでら)の僧たちにより日常の器として作られていた根来塗(ねごろぬり)が紀州漆器の起源だという説もあります。素人である僧が作った根来塗は塗りムラがあり、朱漆が剥がれて中塗りの黒漆が露出していました。しかし、その文様が評判になり、あえて朱漆を剥がした製品が作られるようになりました。明治時代には根来塗風の漆器に加え、蒔絵や沈金も導入。時代とともに進化し続けることも紀州漆器の特徴です。

山中漆器(石川

日本 山中漆器 石川
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石川県加賀市の山中温泉地区で作られる山中塗とも呼ばれる「山中漆器」。古くから木地師の多い山中では、挽物木地(※1)の生産量日本一を誇ります。そんな山中漆器の大きな特徴が、木が育つ方向に器の形を取る縦木取り。その方法により乾燥による歪みを防ぎ、丈夫な漆器に仕上げます。

そして、極細の筋を入れる「加飾挽き(かしょくびき)」も山中漆器の大きな特徴のひとつ。江戸時代中期に導入された華やかな蒔絵を施した茶道具も高い評価を得ています。

※1:ろくろで木材を回転させながら、刃物で削り出して器作りや装飾を施す技術

輪島塗(石川

日本 輪島塗 石川
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石川県輪島市で生産される「輪島塗(わじまぬり)」。大きな特徴は、丁寧に塗り重ねられた漆の美しさと蒔絵や沈金などの加飾の美しさ、丈夫さ。これらの高い品質を維持できる理由が、輪島塗を称するために定められた規定です。

規定のひとつが、能登半島で採れる珪藻土を焼いて作った「輪島地の粉(わじまぢのこ)」を使うこと。そして、木地の弱い部分に布(麻や寒冷紗)を使って「布着せ」をすることや天然の漆を使用すること、木地に使用する用材など、細かく定められています。

この厳しい規定により美しさに加え、やさしい手触りや口当たり、抗菌・殺菌作用、断熱性などを備えた輪島塗が実現しているのです。また、堅牢な作りのため、キズができたり、剥げたりしても修理することで長く愛用し続けることができるのも輪島塗の魅力。まさに、育てていく器です。

越前漆器(福井

日本 越前漆器 福井
(C) Fukui Prefectural Tourism Federation

福井県鯖江市周辺で作られる越前漆器。その特徴は、上品な光沢と深く美しい色合い、そして軽くて丈夫なこと。江戸時代末期には、沈金や蒔絵などの加飾技法を導入。以降は、美しい装飾性のある漆器を生み出すようになりました。明治時代以前は丸物といわれる椀物中心でしたが、明治時代以降は、重箱や盆などの角物も作るようになり、今では多彩な器が生産されています。

漆器の使い方とお手入れ方法

日本 漆器 使い方 お手入れ方法
越前漆器 (C) Fukui Prefectural Tourism Federation

漆器の使い方

漆器は、酸性やアルカリ性、アルコールにも強いので、多くの料理を盛り付けることができます。ただし、長期保存には向きません。また、高温になる電子レンジやオーブン、熱湯も漆が剥げる可能性があるため、汁物や料理を盛り付ける際は70~80℃を目安にすると安心です。

一緒に使うカトラリーも金属製のものは、漆器を傷つけてしまうので注意が必要です。

漆器のお手入れ方法

漆器の使い始めで匂いが気になるときは、水で薄めた酢を柔らかい布にしみ込ませて拭き、お湯で洗い流すと匂いが気にならなくなります。一方、日常のお手入れは、食器用の中性洗剤を使い、やわらかいスポンジでやさしく洗いましょう。ぬるま湯ですすいだ後は、水滴が残らないよう柔らかい布でふき取ります。毎回、布で拭きあげることで漆器の表面が磨かれ、艶が増してくるので、できれば自然乾燥ではなく拭きあげるのがおすすめ。

食器棚などにしまう際は、陶磁器やガラス製の食器と重ねると傷がつくので、漆器同士で重ねることが大切。漆器同士でも気になる場合は、柔らかい布やティッシュなどを挟むと安心です。

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