日本には「笑い」を表現する言葉がいくつも存在します。語彙も豊かな笑いについて、日本では記念日が定められていることを、皆さんはご存じでしょうか。今回の記事では、日本で定められている「笑いの日」と、「笑い」に関連するイベント情報を、日本の笑いに関わる文化的な話題に併せてお届けします。
日本における「笑い」の文化
本題の「笑いの日」について紐解いていく前に、「笑い」に関する日本の少し文化的な話題を二つご紹介しておきましょう。
日本語の「笑い」の表現
日本語には、「笑い」の語彙が多く存在しています。ひとえに「笑い」の一語で言い表せるものにも、その裏に隠された感情を含めた在り方の違いによって異なります。
- 愛想笑い(Aiso Warai):相手に取り入るための笑い
- 薄笑い(Usu Warai):声を立てず、かすかに笑うこと
- 忍び笑い(Shinobi Warai):声を立てずに笑うこと
- 高笑い(Taka Warai):遠慮無く大きな声で笑うこと
- 苦笑い(Niga Warai):不快感やとまどいがありながらも仕方なく笑うこと
- 思い出し笑い(Omoidashi Warai):昔あったことを思い出して笑うこと
- 照れ笑い(Tere Warai):恥ずかしくて思わず笑うこと
- せせら笑い(Sesera Warai):相手を馬鹿にして笑うこと
- 爆笑(Bakusho):大笑いすること
- 微笑(Bisho):ほほえむこと
- 失笑(Shissho):笑ってはいけない場面で笑ってしまうこと
- 冷笑(Reisho):相手に呆れて思わず笑ってしまうこと
- 嘲笑(Chosho):相手を馬鹿にしたりからかったりして笑うこと
日本人の笑いに関する考察:ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)『日本人の微笑』から
明治時代(1868〜1912年)に来日し、日本でその生涯を終えた作家のラフカディオ・ハーン(小泉八雲)は、「日本人の微笑(The Japanese Smile )」という文章を残しています。この文章の中でハーンが注目したのは、当時の日本人たちが浮かべた「微笑」の、海外からやってきた人々にはおよそ理解しがたいばかりか、その誤解が「とてつもなく不愉快な事件」さえ引き起こす側面でした。
広島の鞭の柄で殴られた車夫が浮かべた微笑、亡き亭主の骨壷を示して笑い声を立てる女中、怒りをぶつけられた「老いたサムライ」が低頭しつつも浮かべた微笑……。日本人はなぜそれほどまでに微笑んでいられるのか――ハーンはこの「日本人の微笑」を一種の「作法」だと分析し、次のように述べています。
日本人は死に直面したときでも、微笑むことができる。現にそうである。しかし、死を前にして微笑むのも、その他の機会に微笑むのも、同じ理由からである。微笑む気持ちには、挑戦の意味合いもなければ、偽善もない。従って、われわれが性格の弱さに由来すると解釈しがちな、陰気なあきらめの微笑と混同してはならない。
日本人の微笑は、念入りに仕上げられ、長年育まれてきた作法なのである。それはまた、沈黙の言語でもある。しかし、その意味を探ろうとして、西洋文化にある表情や仕草の概念を当てはめようとしても、――それはちょうど中国の表意文字である漢字を読むのに、文字の形がわれわれ西洋人の見慣れたものに似ているとか、あるいは似ていないとかいって理解しようとするのと同じくらいに――うまくいかないだろう。(引用元:池田雅之訳『新編 日本の面影 』角川書店、2000年、302〜303ページ)
自分とは異なる文化的な背景をもつ人々の、理解しがたい営みを「オープンマインド」な姿勢で受け容れようとするハーンの暖かい眼差しには、実に目を見張るものがあります。この文章の後半では、「日本人の微笑」を理解するため、ハーンは日本の庶民の生活に立ち入って分析を進めます。つづきが気になった方は、ぜひこのハーンの著作を手に取ってみてください。
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笑いを研究する?「日本笑い学会」
一方、日本では「日本笑い学会」なる学会が設立されており、現在も活動が続けられています。この学会は1994年に設立されたもので、ホームページによると、「『笑いとユーモア』に関する総合的研究を行ない、笑いに対する認識を深め、笑いの文化的発展に寄与すること」を目的としています。また、この学会は、「哲学、心理学、文芸学、人類学、医学などの(中略)各専門分野を超えて交流を深め、笑いの総合的研究」も目指しています。
会員数は700名で、「笑いの理論」「笑いと地域」「笑いと芸術・芸能」「笑いと健康」「笑いとコミュニケーション」からなる部会によって研究会が開催されているほか、放送作家や落語家、大学の先生といった方々による「オープン講座」も毎月開催しています。気になった方は、ぜひ情報をチェックしてみてはいかがでしょうか。
日本の「笑いの日」が制定された経緯
日本では「笑いの日」が8月8日と定められています。この記念日は、その名の通り「笑いの日を作る会」によって1994年に制定されたもので、この会は1966年に制定された「国民の祝日「敬老の日」の実現に向けて音頭を取った日本不老協会が中心となって発足した」組織とのことです。また、この「笑いの日」が他でもない8月8日とされたのは、笑い声を「ハ(8)ッハ(8)」と日本語で読むことに由来されています。
ちなみにこの日本の「笑いの日」とは別の記念日として、「世界笑いの日 」なる記念日が存在することはご存じでしょうか。この記念日は「従来のヨガの呼吸法に笑いを取り入れた健康法」として知られる「笑いヨガ運動の創始者マダン・カタリア博士」によって1998年に提唱されました。現在、5月の第1日曜日に制定されています。
「道民笑いの日」に関連するイベント
8月8日は、北海道では特に「道民笑いの日 」としても知られています。2016年に施行された「「道民笑いの日」制定要領 」によれば、この記念日は「健康寿命の延伸に向けた取組の一つとして、笑いが健康にもたらす効果が大きいことに着目し、笑いによる健康づくりについて、道民へ普及すること」を目的として定められたもので、8日から14日までの1週間は「道民笑いの日」運動をさらに発展させるための「道民笑いの日推進週間」としても設定されています。この道民のための記念日に合わせて、さまざまなイベントも行われています。
おわりに:現在に伝わる「笑う」奇祭?
ここまで「笑いの日」に関連し、日本の「笑い」文化に関する話題、および北海道の「道民笑いの日」に開催されたイベントの情報をお届けしてきました。特に「笑いの日」のイベントというわけではありませんが、「笑い」に関連する伝統行事は現在も日本各地に受け継がれています。
その独特のスタイルから「奇祭」としても知られるのが、山口県防府市大道の小俣地区に伝わる「お笑い講」という神事です。これは、袴姿で正装した人たちが、榊を手に「ワーハッハッハッ」と3回笑いあい、今年の収穫の感謝と来年の豊作を祈り、1年の憂いを豪快に笑い飛ばす奇祭です。日本の伝統的な衣装を身に纏った人たちが、日常生活ではあまりお目にかかることもない豪快さで笑いあげる姿は、まさに「奇祭」の名にふさわしい行事と言えるのではないでしょうか。
ちなみに、「防府市観光情報ポータルサイト」によると、2024年は12月1日にこの神事が行われる予定となっています。今年の「お笑い講」では、皆さんのどんな豪快な笑いが見られるのでしょうか。映像で報道される神事のさまを楽しみにしたいところです。
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