日本は米文化で、ご飯料理が豊富です。天丼や牛丼などのご飯料理以外にも、日本独自の地域の伝統と風土が息づくご飯料理があります。東京の深川めし、岐阜のさよりめし、島根のうずめ飯、大阪のかやくめし、そして埼玉の忠七めし。これらを合わせて「日本五大名飯」と呼ばれています。この記事では、日本五大名飯を中心に、日本の食文化の根源を探求します。地元の食材と伝統的な調理法が生み出す味わい料理の世界に、ぜひご一緒に足を踏み入れましょう。
日本五大名飯とは?
日本五大名飯とは、1939年に宮内庁が全国郷土料理の中で日本の代表的郷土、ごはん料理として選定した料理のこと。これらの料理は、地域の歴史や文化、そして特産品を活かした独自の味わいや調理法を持ち、その土地の人々に愛されています。日本人にとって、ご飯は単なる食事ではなく、文化や生活の一部として重要な存在です。食卓において、ご飯は家族や友人との絆を深める場として重んじられ、季節や地域の特産品との組み合わせによって、その味わいがさらに豊かになります。このような日本の食文化の一環として、日本五大名飯が位置付けられています。
日本五大名飯一覧
東京都深川「深川めし」
深川は江戸時代(1603~1868年)に漁師の町として栄え、魚貝類や海苔などを捕る漁師たちが多く住んでいました。この地域では特にアサリが豊富に取れ、地元ではアサリを「深川」と呼ぶこともありました。深川めしの起源は、深川の漁師たちが船上で食べていた料理、「ぶっかけめし」にあります。当時、漁師たちは捕れたアサリを長ネギや豆腐と一緒に煮立て、その汁をご飯にかけて食べていました。その後、この料理は味噌やしょうゆ仕立ての現在のぶっかけタイプに進化し、屋台や一膳飯屋さんで提供され、手軽で簡単な食事として親しまれるようになりました。
「深川めし」にはもう一つ、アサリをごはんと一緒に炊いた「炊き込み」タイプもあります。これは大工などの職人さんが弁当として持ち運ぶことを考えて生まれたと言われています。新鮮なアサリが手頃な価格で手に入る深川ならではの特徴で、家庭料理として親しまれてきました。
東京都内で深川めしが食べられるレストラン
・割烹 みや古
住所:東京都江東区常盤2-7-1
・膳処天ぷら 片山
住所:東京都江東区平野1-14-2
・深川宿本店
住所:東京都江東区三好1-6-7
・ふか川 一穂
住所:東京都江東区木場2-8-8
・深川釜匠
住所:東京都江東区白河2-1-13
岐阜県可児市・御嵩町「さよりめし」
岐阜県の中南部や南東部は山間に位置し、昔は新鮮な海の魚を手に入れることが難しく、主に行商人から保存が利く塩漬けや干物の魚を入手していました。特に塩漬けさんまは貴重品であり、特別な日しか食べられませんでした。その貴重な塩漬けさんまをおいしく食べるために、地元の人々が工夫してご飯と炊き込んだ「さよりめし」が生まれました。 秋の収穫のお祝いや特別な日などに、さよりめしを食べることが伝統とされていました。
主な食材はさんまと白米ですが、地域によってはショウガ、里芋、山椒、ゴボウなども使用されます。さんまは余すことなく活用され、輪切りやぶつ切りにして、骨や内臓も味付けのためそのまま使用されます。一部地域では、事前に頭、尾、内臓を取り除いたさんまが使用される場合もあります。
「さよりめし」は、別の海の魚である「さより」ではなく、「さんま」が使われています。では、なぜさんまを使っているのに「さよりめし」と呼ばれているのでしょう? 海がない可児の地域の人々は、海の魚について細かな区別をせず、細長い魚をすべて「さより」と呼んでいたのです。そのため、本来は「さんまめし」であっても、「さよりめし」と呼んでいたのです。
可児市内でさよりめしが食べられるところ
現在、可児市内にはさよりめしを提供している店舗はありませんが、「サヨリ飯の素」という缶詰が道の駅「可児ッテ」にて販売されています。この缶詰を手に入れれば、ご家庭で手軽にさよりめしの味わいを楽しむことができます。
・道の駅「可児ッテ」
住所:岐阜県可児市柿田字杉坪416番地1(東海環状自動車道 可児御嵩ICからすぐ)
さらに、可児市観光協会が主催するイベント、11月のもみじ祭や3月のカタクリまつりなどでは、観光協会がさよりめしを販売します。その場で味わうことができますので、ぜひお越しください。イベントの詳細情報は公式サイトにてご確認いただけます。
- 可児市観光協会サイト(日本語のみ) https://kani-kankou.jp/
島根県・津和野町「うずめ飯」
「うずめ飯」は、島根県西部の石見地方、特に津和野町の郷土料理です。見た目はわさび茶漬けのようですが、実はご飯の下には小さく刻んだ鯛や野菜が隠れています。この食べ方の起源は諸説あり、質素倹約を強いられた江戸時代(1600〜1868年)に贅沢しているのを悟られないため、具材が粗末で他人に見られるのが恥ずかしかったため、などが挙げられています。また、提供や食べる際には伏し目がちにするといった習わしも伝わっています。
うずめ飯の具材には、セリ、ニンジン、シイタケ、鯛、わさびなどが使われます。特に重要なのは、水が清らかな山間で育てられた香り高いわさびです。津和野町では、わさびが特産品として栽培され、うずめ飯にもよく使われています。津和野町のわさびは、甘みが強く、わさびに慣れていない方にも好評です。うずめ飯を食べる際には、野菜とあぶった鯛の出汁をかけてお茶漬け風にしていただきます。あっさりとした素朴な味わいのご飯に、わさびが良いアクセントを加えてくれます。
島根県でうずめめしが食べられるレストラン
・沙羅の木
住所:島根県鹿足郡津和野町殿町
・お食事処みのや
住所:島根県鹿足郡津和野町後田イ75‐1
・季節料理とくまさ
住所: 島根県鹿足郡津和野町後田イ-293
大阪府・難波「かやくめし」
「かやくめし」は大阪府の難波が発祥の地と言われ、具材と一緒に米を炊く「炊き込みご飯」の一種です。大阪ではこのような炊き込みご飯を「かやくめし(かやくご飯)」と呼び、庶民の味として根付いています。大阪で特に愛される理由は、冷えてもおいしく食べられることや、具材が多いのでおかずが不要。そして残りの野菜を使って無駄なく調理できることなど、合理性が大阪人の気質に合っているからとされています。
「かやく」という言葉の語源は、漢方薬の効果を高めたり、飲みやすくしたりするために加える補助的な薬のことを指しています。そのため、料理に加える薬味的な具材を「加薬」と呼ぶようになったとされています。関西地域で五目飯やうどんに入れる肉や野菜のことで、具材や種という意味があります。つまり、関東地域で五目ご飯と呼ばれるものを、関西ではかやくめしと呼ぶのです。かやくめしは関西の味付けなので、仕上がりは薄味の傾向があります。
大阪府でかやくめしが食べられるレストラン
・大黒
住所:大阪府大阪市中央区道頓堀2-2-7
・うどん ゆきの
住所:大阪府大阪市東住吉区山坂3-10-14
埼玉県・小川町「忠七めし」
「忠七めし」は、江戸時代末期から埼玉県の小川町にある割烹旅館二葉だけで提供している料理です。温かいご飯に海苔やわさび、柚子、さらし葱などの薬味を添え、秘伝のつゆが入っている土瓶と一緒に提供されます。食べ方は、ご飯の中央に薬味を載せ、その上から熱い秘伝のつゆを八分目ほどかけて、お茶漬けのように軽やかに召し上がります。
「忠七めし」は、料理人であった割烹旅館二葉八代目館主・八木忠七と明治の偉人・山岡鉄舟居士との出会いから生まれました。鉄舟居士は小川町竹沢を訪れるたびに、必ず二葉で飲食していたそうです。ある日、鉄舟居士は忠七に向かって「調理に禅味を盛れ」と示唆し、それを受けた忠七が苦心して完成したのが「忠七めし」でした。この料理には、鉄舟居士が極意とした「剣・禅・書」三道の意が取り入り、日本料理の神髄である「風味と清淡」とが合致されています。鉄舟居士にこの料理を差し上げたところ、大変喜ばれて「忠七めし」と名付けられました。
忠七めしが食べられる割烹旅館二葉とは
1748年に創業、二百七十年以上の歴史を誇る割烹旅館二葉は、数寄屋造りの内装が特徴で、和の趣が随所に感じられます。1933年に建てられた二葉楼 本館 は、国の登録有形文化財に指定されています。回遊式日本庭園では、西暦1300年頃に造られた青石の板碑やさざれ石など、数々の奇石が配置され、見どころが随所に点在しています。お食事の後などには、庭園をゆっくりと散策することができます。
割烹旅館二葉では、名物の忠七めしに加えて、旬の食材を大切にした会席料理もお楽しみいただけます。前菜、お椀、お造り、焼物が含まれるコースの中で、最後には必ず忠七めしを提供されます。食材へのこだわり、忠七めしの味わいを引き立てるために、瀬戸内海で採れた海苔を使用し、山岡鉄舟とゆかりの深い東京日本橋山本海苔店で特別に焼き上げています。また、米は有機栽培のこしひかり、鰹節は東京日本橋にんべんの枕崎産血合い抜き、本枯鰹節極上品を使用。さらに、自然豊かな小川地方の柚子が忠七めしをより一層引き立ててくれます。
日本の五大飯は、地域の風土や歴史、文化を反映した貴重な郷土料理。これらの料理を通じて、私たちは地域の食文化の多様性と豊かさを体験し、地域の人々の生活や思いを感じることができます。食を通じた地域の交流は、地域間のつながりを深めるだけでなく、文化の保存と発展にも寄与します。各地へ訪れたら、「日本五大名飯」もぜひ食べてください。
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