2024年7月3日、日本では、新しいデザインの紙幣が発行されます。デザインが刷新されるのは、2004年以来、20年ぶり。当記事では、なぜ新紙幣が発行されるのか、どんなデザインなのか、知っておけば日本円を使うのが楽しくなる雑学などをご紹介します。2024年7月3日以降に訪日の際は、使われ始めたばかりの新紙幣に出会えますように!
日本はいつから新紙幣が発行?なぜ新紙幣に変わる?
2023年12月、日本銀行と財務省は2024年7月3日に新紙幣の発行を開始すると発表しました。その主な理由は、偽造されたお金が出回らないようにするため。偽造紙幣は減ってきているとはいえ、2018年に1万円札だけで1523枚の偽札が見つかりました。これまでも約20年に1回のペースで偽造防止技術を施した紙幣や新しいデザインの紙幣を発行してきました。
現在、日本では、主に、1万円、5000円、2000円、1000円の4種類が使われていますが、今回の改刷は1万円、5000円、1000円3種類。2024年3月末までに新たな紙幣をあわせて45億3000万枚を印刷する予定で、2024年7月以降、需要に応じて順次必要な量を発行する予定です。
今回の改刷について、日本人だけでなく、外国人や目の不自由な人にとっても使いやすいものにするために、表裏にある額面のサイズを大きくする、触って違いがわかるように、ざらざらとしたマークを紙幣ごとに異なる場所に入れるといったさまざまな工夫を施しています。こうした「ユニバーサルデザイン」の考えを軸に「簡単に偽造できず、誰にでも使いやすい紙幣」をコンセプトとしています。
日本の新紙幣に描かれる人物は?
日本の現在の紙幣の表面には、1万円札には「福沢諭吉」、5000円札が「樋口一葉」、1000円札が「野口英世」が描かれています。
新紙幣ではこれらの人物が変わるため、見た目の印象もがらりと変わります。外国人旅行者にとっては馴染みのない人ばかりだと思いますが、日本では歴史の教科書に必ず出てくる人物です。今回刷新する3種類の紙幣に描かれる人物は以下の通りです。
■新1万円札…実業家で「近代日本経済の父」とよばれる「渋沢栄一」
ここがスゴイ!ポイント
- 「近代日本経済の父」や「日本資本主義の父」とよばれる
- 約500社の企業の設立や育成に関わる
- 日本初の銀行「第一国立銀行(現「みずほ銀行」)」、「東京株式取引所(現「東京証券取引所」)」など、名だたる企業や団体の設立に携わる
- 一橋大学など約600もの教育機関や研究機関等の設立や社会事業の支援に携わる
■新5000円札…日本の女性教育の先駆者「津田梅子」
ここがスゴイ!ポイント
- 1871年(明治4年)、女性初の留学生の1人として6歳でアメリカへ。約11年間滞在し、17歳で帰国。その後、再びアメリカに留学
- ブリンマー大学で生物学を専攻。その際に執筆した論文が英国の学術雑誌に掲載。「欧米の学術雑誌に論文が掲載された最初の日本人女性」に
- 帰国後、女子英学塾(現「津田塾大学」)を創立。「男性と協同して対等に活躍できる女性の育成」を目指す
■新1000円札…伝染病の予防などに多大な功績を遺した細菌学者「北里柴三郎」
ここがスゴイ!ポイント
- 日本における「近代医学の父」とよばれる
- 東京医学校(現「東京大学医学部」)で学び、卒業後はドイツへ留学
- 1889年、当時不可能とされていた破傷風菌だけを取り出して培養する「純粋培養」に世界で初めて成功
- 帰国後、「私立北里研究所」を設立。インフルエンザや赤痢などの血清開発を続ける
裏面は何が描かれているの?
新1万円札
表面:渋沢栄一
裏面:東京駅丸の内駅舎。赤レンガの外壁が印象的で、重要文化財に指定されています。
新5000円札
表面:津田梅子
裏面:日本固有のフジの一種で、大阪市福島区発祥とされるノダフジ。フジは日本では古くから広く親しまれている花です。
新1000円札
表面:北里柴三郎
裏面:富嶽三十六景「神奈川沖浪裏」。江戸時代の浮世絵師葛飾北斎の代表作で、日本を代表する浮世絵です。
なぜこの3名が選ばれた?選ばれる基準は?
今回の刷新で「渋沢栄一、津田梅子、北里柴三郎」が肖像に選ばれた基準は、以下の通りです。
1.各分野で傑出した業績を残していること
2.現在でも私たちが課題としている新たな産業の育成、女性活躍、科学の発展に関して、日本の近代化をリードし、大きく貢献していること
3.偽造防止の目的から、なるべく精密な人物像の写真や絵画を入手できる人物であること
4.肖像彫刻の観点からみて品格のある紙幣にふさわしい肖像であること
5.日本国民が世界に誇れる人物で一般によく知られていること
6.明治時代以降に活躍した人物であること
日本の新紙幣にも採用される偽造防止技術
簡単に偽造されないようにするために、また一般人でもすぐに偽造と気づくために、さまざまな技術が用いられています。いずれもカラーコピー機では真似できないような特殊な技術ばかりです。万が一真似されても、触ったり、傾けたりしてすぐに識別できます。他にも秘密の技術が駆使されていて、日本のお札は他国と比べても偽札が少ないと言われています。それでは、どのような技術が何を目的に施されているのか、ご紹介します。
その1:触ってわかる/深凹版印刷(1)
額面文字と識別マークはインクを高く盛り上げる印刷技術「深凹版印刷」を用いています。触るとざらざらしています。
その2:透かしてわかる/高精細すき入れ(すかし)、すき入れバーパターン(2)(3)
肖像の右側に肖像画のすかしが入っているだけでなく、背景に高精細なすき入れ(すかし)が入っています。どちらも透かしてみるとよくわかります。
肖像画のすぐ右側には、綿棒状にすき入れが入っています。1万円は3本、5000円は2本、1000円は1本です。
その3:傾けてわかる/ホログラム、潜像模様、パールインキ(4)(5)(6)
肖像を傾けると三次元に見えて回転します。銀行券への搭載は世界で初めての技術です。そのほか、肖像以外の図柄も見る角度によって変化します。例えば、1万円、5000円は、ストライプ型、1000円はパッチ型です。
傾けると文字が浮かび上がる「潜像模様」を施してあります。表面は額面の数字、裏面はNIPPONです。
表面の右下は、傾けると左右両端にピンク色の光沢が見える「パールインク」
その4:道具でわかる/マイクロ文字、特殊発行インキ(7)(8)
裏面の右端には、虫眼鏡などでよく見ると、コピー機では再現できないほどの小さな文字「マイクロ文字」が見ます。
紫外線を当てると、日本銀行総裁の印章や模様の一部が発光します。
そのほか、知っておきたい雑学
お札のサイズは?
現在のお札のサイズは、縦はすべて76ミリで統一。ATMや自動販売機などで機械に通しやすくするためです。横の長さについては、紙幣によって、異なり、1万円札は160ミリ、5000円札は156ミリ、2000円札は154ミリ、1000円札は150ミリ。ミリ単位ですが、横の長さは違っています。
なぜ、肖像が描かれているの?
お札のデザインに肖像が描かれている理由は、人の顔や表情のわずかな違いにも気がつくという人間の目の特性を利用するためです。
日本の紙幣に描かれている肖像画は、1ミリの間に10本以上の線を入れられるほどの超細密画線で描かれています。コピーできないくらいの細かさです。
ちなみに、肖像画にされた人物を見てみると、ヒゲがある人が多いことがわかります。それは、線が細く真似するのが難しいからといわれています。
細かく描かれた肖像画、どのように描かれたの?
改刷のポイントとなる肖像画。まずは、工芸官というデザインや彫刻を専門とする人が、絵具や筆を使ってもととなる絵を描きます。その後、彫刻刀を使い、銅板の上に点と線だけで細かくほって完成。
新紙幣が発行されたのちも新紙幣は使えるの?
新札が発行されたあとも、旧紙幣は変わらずに使うことができます。 ATMや店頭などでも通常通り利用できますので、急いで両替に行く必要はありません。ちなみに、既に発行が停止された紙幣のうち、現在でも使えるお札は18種類あります。
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