日本の象徴する文化的なシンボルといえば、みなさんは何を思い浮かべるでしょうか。浮世絵などに描かれる富士山、あるいは日本のドラマやアニメで描かれる「満開の桜」を挙げる方も少なくないでしょう。今回は、日本で制定されている、桜にまつわる記念日の話題をご紹介します。
日本の文化と桜
記念日そのものについてご紹介する前に、まずは、日本と桜のつながりについて「植物としての桜」、「文化としての桜」、そして「日常生活の中に溶け込む桜」の三点から確認しておきましょう。
植物としての桜
農林水産省の広報誌によれば、桜という一つの種類の植物が存在しているのではなく、野生の種だけでも日本で10種の桜が存在する、とされています。
具体的な種の名前
ヤマザクラ
ほぼ純白の花びらをもち、開花と同時に赤褐色の若葉が伸びている品種
エドヒガン
開花時にまだ葉は伸びていないため、白色から淡紅色の花弁の色合いがとてもよく目立つ
オオシマザクラ
伊豆諸島の大島などに分布していた野生種で、花びらは赤みのないほぼ純白で、開花と同時に緑色の若葉が伸びている
もちろん日本で観ることのできる桜の種類は、こればかりに尽きません。人の手によりつくられた品種、すなわち「栽培品種」の桜も存在しています。たとえば現在の日本で「桜といえば?」と聞かれた際、多くの人がその名前を挙げるはずの品種、「桜の代名詞的存在」といっても過言ではない「染井吉野(ソメイヨシノ)」は、こちらに属します。
実は「染井吉野」、この「エドヒガンとオオシマザクラの雑種となる栽培品種で、江戸郊外の染井村(現在の東京都豊島区駒込)から広まったとされ、木と木を繋げて育てられる「接木」によって作りつづけられたため、意外なことに、全国の染井吉野はすべて同じ一本の原木からのクローンともされています。
文化としての桜
百人一首に登場する桜
桜は文化的なシンボルとして溢れることとなりました。たとえば、日本の「競技かるた」としても今日でも親しまれている「百人一首」の中には、「いにしへの 奈良の都の 八重桜 けふ九重に 匂ひぬるかな」という一首があります。この歌は奈良、そして京都といった新旧の都で咲き誇る八重桜の様を詠んだものですが、「百人一首」の中では、他にもいくつかの歌の中で桜が題材に選ばれ、今日まで歌い継がれてきました。
桜をテーマにした日本の歌
今日的な意味で「歌い継がれる」ということについていえば、いわゆるJ-POPの〈桜ソング〉として、これまで数多くの楽曲(春の季節が近づけば毎年のように発表されています)の中で、桜が取り上げられてきました。
2000年代の歌ですが、有名なものを挙げるならば、福山雅治『桜坂』、森山直太朗『さくら(独唱)』、いきものがかり『SAKURA』といった曲があります。あるいは、ボーカロイド楽曲『千本桜』を、第一に挙げる人もいるかもしれません。
桜の花が咲く季節は多くの地域で、学校の卒業式や入学式、会社の入社式と時期が重なります。そのため、「桜ソング」の多くは出会いや別れを歌うものが多く、また満開を迎えた桜の花びらが、やがて散っていくことに、やがて終わりを迎える“はかない運命”のようなものを重ねて描く歌が増えています。
お金や切手に描かれる桜
また、日本での日常生活で誰もが一度は目にするはずのものにも、桜が描かれています。たとえば、財布を開いて、100円玉を探してみてください。実は、日本で流通している100円硬貨の「100」と書いてある反対側の面に描かれている花は、ほかならぬ桜です。
郵便局などで売られている63円普通切手(はがきを送ることができる料金の切手)に描かれている花も、桜(ソメイヨシノ)です。
「さくらの日」が制定された経緯
日本の文化と切っても切り離せない桜について、日本では「さくらの日」として3月27日が記念日に制定されています。この記念日は公益財団法人日本さくらの会によって、1992年に制定されました。制定の目的は、「日本の代表的な花である桜への関心を高めることと、花と緑の豊かな国土を作ろう」ですが、3月27日を「さくらの日」とすることは、「「3×9(咲く)=27」の語呂合わせと、中国で考案された季節を表す方式である七十二候の中の「桜始開」の時期であること」に由来しています。
ここで「語呂合わせ」と「七十二候」について少し解説しておきます。「語呂合わせ」とは、1から9、あるいは10、100などといった数字に読みを日本語の五十音(もしくは複数の音)を割り当てて、読みにその音をもつ言葉と数字との組み合わせを楽しむものです。暗証番号を覚えたり、歴史的な出来事が起きた年号を覚えたり際に、日本ではしばしば用いられます。ここでは、3は「さ」「さん」、9は「きゅう」「く」といった音をそれぞれ割り当てられているため、3と9の組み合わせで「さ」「く」、すなわち「咲く」と読むことができます。
一方で、「七十二候」という概念については、日本での日常生活の中でもなかなか目にする機会はなく、馴染みの薄い概念です。これは「半月毎の季節の変化」を示している(合計24個の)「二十四節気」を、さらに約5日おきに分けて、気象の動きや動植物の変化を知らせるものとされています。ちなみに、節分にまつわる「立春」、日照時間の長短に関わる「春分」「夏至」は、この二十四節気に含まれるものです。
「さくらの日」関連イベント情報
3月27日の「さくらの日」にちなんで開催されるイベントの情報は、2024年現在、確認できませんでした。ただし、「桜始開」ともあるとおり、この時期は全国各地で桜が見頃を迎える頃でもあり、花見客を迎える「さくらまつり」が、各地の「桜の名所」で開催されます。
たとえば東京都内では、千代田区と一般社団法人千代田区観光協会主催のイベントとして「千代田のさくらまつり」が開催されています。期間中には、「千鳥ヶ淵緑道」のLEDライトアップや「区営千鳥ヶ淵ボート場」の夜間特別営業などが例年行われます。
また、約3万本の桜が植えられているとされ、桜の名所としても名高い奈良県の吉野山でも、3月下旬から4月下旬にかけて吉野山全域で「桜まつり・桜ライトアップ」が例年開催されます。
おまけ:桜の木はいつ咲く?開花時期を知る方法
日本列島の各地で植えられた桜ですが、気候の差によって各地域で開花時期が異なっています。ウェブ上で公開されている各気象予報サイトでは、各地の桜の開花時期の予想や実際の開花情報がまとめられています。開花の状況はしばしば、「開いている花の数の割合」で「○分咲き」といった表現が用いられます。それのみならず桜の木は、満開の時期を過ぎて花びらが散ってしまった後にも、桜の木に芽吹いた新緑の「葉桜」を楽しむことができます。春に桜を満喫するための参考にしてみてください。
おまけ:春の和菓子は「さくら餅」が定番
また、残念ながら、春に来日しても桜の開花時期と合わなかった方は、ぜひ和菓子屋さんやスーパーの和菓子コーナーで「さくら餅」を手に入れてみてください。関西の関東の文化圏でそれぞれ形は異なりますが、餡子をさくら色の生地で包み、その外側を桜の葉で巻いた和菓子です。まさに「花より団子」という方には、お腹の中から桜の季節を味わえる、ひとつの有効な策かもしれませんね。
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