日本を代表する山、富士山。多くの人が、日本のシンボルとして第一に挙げるものではないでしょうか。それは山梨県と静岡県にまたがる、日本最高峰を誇る、標高3,776メートルの山ということだけではなく、多くの文脈で象徴的な存在として扱われてきた山です。今回の記事では、そんな富士山が記念日として定められている、「富士山の日」にまつわるお話をご紹介します。
文化的シンボルとしての富士山
2013年に富士山は、「富士山ー信仰の対象と芸術の源泉」としてユネスコの世界文化遺産に指定されました。「芸術の源泉」という登録名からもわかるように、富士山はこれまで多くの芸術家たちにインスピレーションを与え、たくさんの優れた芸術作品にシンボルとして描かれてきました。
浮世絵に描かれる富士山
たとえば、江戸時代の浮世絵として葛飾北斎の『富嶽三十六景』シリーズに描かれたものは、あまりに有名です。大きく白波を立てる海の向こうに見える富士山(「神奈川沖浪裏」)や、赤く映えた富士山の姿(「凱風快晴」)は、日本の文化に触れた方ならば、だれもが一度は目にするイメージでしょう。
日本文学に登場する富士山
美術作品のみならず、文学作品の中にも富士山はしばしば描かれてきました。たとえば、現代では「かぐや姫」の名前で知られる物語の、その元になったお話『竹取物語』の終盤にも登場するほか、小説家として知られる太宰治は「富嶽百景」という短編を残しています。
日本各地にある富士山
日本各地には「郷土富士/ふるさと富士」といって、全国各地の名山を「〇〇富士」という愛称で呼ぶ風習もあります。たとえば、鳥取県にそびえる大山(だいせん)は、鳥取県西部のかつての国名である「伯耆」をつけて「伯耆富士」と呼ばれることがあります。
お札に描かれる富士山
文化的なシンボルとしての富士山は現代でも、日本で生活する人ならば一度は目にするはずのものにも描かれています。それが、日本銀行券(お札)です。たとえば、2004年から流通が始まった千円札(表には医師・野口英世の肖像が描かれている、青色で印刷された紙幣)の裏面には、富士山が描かれています。また2024年に発行された新しいデザインの紙幣のうち、新・千円札の裏面にも、引きつづき富士山(今度は、葛飾北斎の「富嶽三十六景」のなかで描かれているもの)がデザインされています。
2月23日は「富士山の日」
実は、日本では「富士山の日」という記念日が制定されていることをご存じでしょうか。この記念日は、静岡県が2009年に制定した「静岡県富士山の日条例」、および2011年に山梨県が制定した「山梨県富士山の日条例」のなかで定められているもので、どちらの条例でも、「富士山の日」は「2月23日」とされています。
また、2月23日という日付自体は同じですが、これら二つの県ではない別の組織によって定められた「富士山の日」もあります。一般社団法人日本記念日協会によれば、「オンラインを通じて、全国一斉に富士山の見え具合をネット上で報告し合うなど、富士山をテーマとした活動」を行う団体である「山の展望と地図のフォーラム」が、2と23で「富士山(ふじさん)」と読む語呂合わせと、この時期は富士山がよく望めることから、2月23日を「富士山の日」と定めた、とされています。
ここで、2月23日という日付にある223という数字の組み合わせを「ふじさん」と読むルールについては、ちょっと解説をしておきましょう。日本では「(数字の)語呂合わせ」といって、0から9(もしくは10や100などの複数桁)の数字に、日本語の五十音のうちのいくつかの音を割り当て、ある数字列とその数字に割り当てられた音からなる言葉を、関連づけることがあります。223の場合でいうと、2は「に」「ふ」「じ」「つ」、3は「み」「さ」「さん」などとそれぞれ読むことができることから、2・2・3で「ふ」「じ」「さん」と読むことができるのです。
富士山の日以外にも、この「語呂合わせ」によって関係づけられることによって制定された記念日は多く存在しています。また、学校の歴史の授業で、出来事の起こった年を暗記する際に用いられたり、覚えやすい暗証番号を設定する際に用いられたりと、日本ではごくありふれた考え方として浸透しています。
2月23日「富士山の日」のイベント情報
富士山がまたがる静岡県と山梨県では、2023年に世界文化遺産登録10周年を迎えたことを記念して、2023年2月23日と2024年2月24日に「富士山の日フェスタ」を開催。2023年は静岡・山梨両県の知事が出席し、「富士山世界文化遺産登録10周年イヤー開幕セレモニー」が開催されたほか、演劇の披露が行われました。
また、「富士山の『日』祭り」として、山梨県立富士山世界遺産センターを含む複数の場所で「富士山の標高3,776mにちなみ、3,776個のおにぎりを地域の皆様に無料配布」する企画が開催。この他、この世界遺産センターでは富士山の日イベントとして「富士山の日クイズラリー」や富士山の日限定の「ふじやま△クレープ」の販売、「ふじさん△ヨガ」の体験、「ふじさん缶バッジ」を作るワークショップが開催されました。
富士山だけではない山にまつわる記念日――国民の祝日「山の日」、国際山の日
「富士山の日」は任意の記念日として制定されているものですが、日本では毎年8月11日が「山の日」として国民の祝日になっています。日本の「国民の祝日に関する法律」第2条によれば、山の日は「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」ものとされています。また、この日には「国土の約7割を占める山地の豊かさとそれが育む国民の営みを全国に広く発信し、山の恩恵に感謝するとともにその恩恵を将来に渡って継承してゆく機会」として、2016年から一般財団法人全国山の日協議会によって「山の日」全国大会が毎年開催されているようです。2023年は第7回大会が、沖縄県で開催されました。
また、2003年には12月11日を「国際山の日(国際山岳デー:International Mountain Day)」とするよう、国連総会で決議がなされています。この記念日については毎年テーマが設定されており、2023年のテーマは、「山の生態系の回復(Restoring mountain ecosystems)」とされていました。
おわりに:遠くから富士山を楽しむ方法
ここまでお読みいただければ、日本の文化と切っても切り離せない関係にある富士山に、2月23日の記念日が用意されているということにも、納得してもらえるのではないでしょうか。富士山まで実際に足を運ぶということはなかなか難しいとしても、近くを通ったときにはぜひその姿を見てみたいものですよね。
もし日本国内を東西に飛行機で移動する予定がある方がいらっしゃれば、ぜひ日本航空(JAL)の「富士山どっち?」というサイト、全日空(ANA)の「富士山 どっち側で見られる?」というサイトを事前に確認してみることをおすすめします。このサイトでは、飛行機の左右どちら側の窓から富士山が見えるかを確認することができます(日本語ページのみ)。
また、東海道新幹線で東西を移動する際には、新大阪から東京へ向かう上り便で進行方向左側の窓から、東京から新大阪に向かう下り便では進行方向右側の窓から、富士山を見ることができます。ぜひ参考にしてみてください。
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