粉雪舞い散る津軽平野を、ゆったりと走るストーブ列車。窓についた霜を手で軽くこすると、外の凍てつく冷気がガラス越しに指先を刺すかのように伝わります。熱々の炙りスルメを手に持つと、外が真っ白な雪原の景色も寒くないように感じられます。
日本の東北地方、青森県「津軽鉄道」の「ストーブ列車」は古い映画のように心に響く物語的な冬の風物詩。今日は実際の乗車体験をご紹介します。
青森県「津軽鉄道」:本州最北の私鉄
青森県「津軽鉄道」は、津軽五所川原駅から津軽中里駅までを結ぶ日本最北の私鉄で、片道の乗車時間は約45分。このうち津軽五所川原駅、金木駅、および津軽中里駅のみに駅員がおり、その他は無人駅となっています。
毎年冬になると、東北地方では大雪が降ります。電気が普及していなかった時代、室内の温度を上げるために炭で暖を取っていましたが、1930年の開業から90年以上津軽鉄道では、当時すでに暖房用にストーブを設置した冬の列車を採用していました。
現代では電気設備が発達し不要となりましたが、津軽鉄道では伝統的な石炭のストーブを守り、毎年12月から翌年3月にかけて冬季限定のストーブ列車を運行しています。便利な現代を生きている私たちでも昔懐かしいストーブ列車を体験することができ、東北地方への特別な観光体験にもなっています。
冬のストーブ列車のほか、夏には「風鈴列車」、秋には「鈴虫列車」と季節限定の3種類の特別列車が運行され、津軽平野を巡りながら青森の魅力を満喫できます。
青森県津軽鉄道「ストーブ列車」乗車体験
旅の始発駅「津軽五所川原駅」を出発!
津軽鉄道の始発駅「津軽五所川原駅」。青森市街地の青森駅や弘前駅からJR五能線やJR奥羽本線で「JR五所川原駅」まで行き、駅を出てすぐそばを歩いて約1分で「津軽五所川原駅」に到着です!
こじんまりとした津軽五所川原駅は、まるで古い学校の校舎にある事務室のよう。駅構内には暖炉が設置され、壁にはいろいろな手描きの絵、古い写真、ポスター、手書きの標語がずらりと貼られています。レトロな雰囲気が漂い、まるでタイムスリップしたかのようです。
ストーブ列車乗車券の購入を忘れずに!
ストーブ列車を体験したい人は、「ストーブ列車券(500円。写真上)」と「普通乗車券(運賃区間別料金・写真下)」の両方の切符を購入することをお忘れなく! ストーブ列車の切符は伝統的な硬式紙の切符で、手作業で切符を切ってくれます。このレトロな感じも特別感がありますね!
また、津軽鉄道は毎日の運行本数が少なく、ストーブ列車はもっと限られています。ストーブ列車は、津軽五所川原駅と津軽中里駅の間を往復し、1日2~3本(*1)しか運行されていないので、乗車を希望する方は、あらかじめ津軽鉄道の公式サイトで時刻表を確認してください。
*1:12月1日と12月平日は1日2便(12月30日から3月31日までは1日3便)。
津軽鉄道のレトロな列車に乗車してみた!
津軽鉄道は、駅のホームからも、列車そのものからも、古い日本映画のような静けさを感じます。列車がゆっくりと発車すると、車体全体が揺れ、頭上の網棚ごとガタガタガタと軋むような音がします。また、車体が大きく揺れるため、車掌は、転んでケガをしないよう、写真撮影のために動き回らずに必ず着席するよう呼びかけていました。
ストーブ列車の温かい炙りスルメは必食!
全席自由席のストーブ列車は、暖炉のそばの席が一番人気で混雑しています。ただし、それはストーブで暖をとるためではなくスルメのためです!
実は、このストーブ列車には、津軽弁で観光案内する津軽半島観光アテンダントも乗車していて列車の運行中にスルメをあぶってくれるサービスがあります。車内でスルメを購入すると(車内は700円で販売しています)、ストーブの上の網でスルメを焼き、細切れに裂いて乗客のビニール袋に入れてくれます。
ストーブの目の前の席は実はとても暑いんです! 外気温が氷点下になっても、車内でコートやマフラーを脱ぐほどです。
写真を撮り終わると、喜んで暖かいスルメを持って暖炉から離れた席に移動して食べましょう。スルメは本当に噛みごたえがあり、噛むほどに香りが良く、お酒もすすむんです!
スルメのほか、津軽五所川原駅で買える冬季限定の「ストーブ弁当」(1,150円、3日前までに要予約)もおすすめです。中身はおにぎりやエビフライ、そして地元野菜がいっぱい(内容は季節に応じて変更になります)。青森名物のリンゴ100%ジュースも駅で販売中です!
津軽鉄道沿線のおすすめスポット
ストーブ列車の魅力は、レトロな車内、名物のスルメだけではありません。沿線スポットの観光もおすすめなんです。津軽鉄道観光のはずせない観光スポットをご紹介します。
津軽鉄道「津軽五所川原駅」:立佞武多の館
青森県に来たら、伝統文化の賜物「ねぶた」を見ずにはいられません! 始発駅「津軽五所川原駅」から歩いて数分のところに、立佞武多の大きなねぷたが置かれている「立佞武多の館」があります。
展示館の最大の見所は、高さ約23mの五所川原「立佞武多」という紙人形灯籠。高台の展望台から螺旋状の坂道を下りながら観ると、まるで目の前に巨人が立っているかのように迫力があり、実際に祭り会場に足を運ぶことなく臨場感を味わえます。
館内には立佞武多の製作過程を無料で見学できる製作所(4月~6月は制作無料体験期間)があり、金魚のねぷたやねぷたライトなど青森らしい製作体験もできるので、親子で楽しめるコースです。
立佞武多の館
- 住所:青森県五所川原市大町506-10
- 開館時間:09:00〜17:00(12月31日は15:00まで営業)
※2023年3月現在、全館17:00までの短縮営業となっています。
※6F展望ラウンジは14:30まで、1Fカフェプラムは16:30まで。
※ねぷた祭期間中は営業時間が変更になります。 - 休館日:1月1日
- 入場料:
【立佞武多展示室と美術展示ギャラリーセット入場券】大人850円、高校生500円、小中学生300円 - アクセス:津軽鉄道「津軽五所川原駅」から徒歩約5分
津軽鉄道「金木駅」:太宰治記念館「斜陽館」
津軽鉄道が走る金木町は日本を代表する文学作家・太宰治の故郷であり、金木駅近くの太宰治記念館「斜陽館」はその生家です。
元は太宰治の父で当時大地主だった津島源右衛門が1907年に建てた豪邸で、付属の建物や庭園を含め、総面積は2,200平方メートルを超えます。邸宅は後に旅館「斜陽館」となり、全国から文学ファンが訪れるようになりました。
1996年に金木町に買収・復元され、現在は記念館として公開され、当時の文具や直筆原稿などの貴重な文物が展示され、文学的な雰囲気に包まれています。
太宰治記念館「斜陽館」
- 住所:青森県五所川原市金木町朝日山412−1
- 開館時間:09:00~17:00
- 休館日:12月29日
- 入場料:大人600円、高校生・大学生400円、小学生・中学生250円
- アクセス:津軽鉄道「金木駅」から徒歩約7分
津軽鉄道「津軽中里駅」:本州最北の私鉄駅
津軽鉄道の最終駅「津軽中里駅」は、日本の本州最北の私鉄の駅でもあります。構内には軽食コーナーや津軽鉄道に関する展示があります。時間が許せば、悠々と津軽中里駅まで乗車して下車。ホームにある「日本最北私鉄の最北駅」の看板の前で記念撮影しましょう。
津軽鉄道に乗れば、見るものすべてが映画のワンシーンのようになってきます。東北に旅行する機会があれば、ぜひ青森の津軽鉄道で冬季限定のストーブ列車に乗ることをお勧めします! 車窓外に広がる雪景色を見ていると、旅の時間があっという間に過ぎてしまいますよ。
Comments