九州地方の長崎県といえば、皆さん何を思い浮かべますか?カステラやちゃんぽん、カトリック教会などでしょうか?グルメや歴史など、異国情緒ただよう文化が長崎の魅力です。
今回は、日本・中華圏・オランダ3カ国の文化の融合である宴会料理「卓袱料理」と、卓袱料理が楽しめ、長い歴史を有する「史跡料亭 花月」の魅力もご紹介します!
古くから港街として栄える長崎
大小様々な離島があり、美しい海の絶景も楽しめる長崎県。古くは、海外との外交の玄関口でした。日本が鎖国していた200年以上の間も、長崎は唯一の貿易の窓口として開かれ、当時の列強国と頻繁に往来があった土地です。政治、貿易、経済、文化と全ての面で世界各国の影響を色濃く受け、異文化との融合によって今の異国情緒溢れる長崎の魅力が作られました。
卓袱料理とは?
海外からの玄関口だった長崎は、宗教や食文化に渡るまで、海外から各方面において大きな影響を受け続けました。卓袱料理(しっぽくりょうり)はまさに、そのような歴史から生まれたのです。
長崎発祥の卓袱料理は、当時主な交易相手国だった中国とオランダの文化が混ざり合って誕生しました。日本の伝統的な宴席料理では、「膳」と呼ばれる四角い食卓を用い、コース料理が1人前ずつ配膳されます。そして、身分や立場によって席の位置も決まっています。卓袱料理はこれとは異なり、身分の垣根を越えて大きな円卓を囲み、共に食事をします。料理は一品ごとに丸い大皿に盛られ、それぞれが自分の箸と匙で小皿に取り分けていただきます。
このように格式ばった作法がなく、和気藹々と食事を楽しめて客同士も打ち解けやすい卓袱料理は、民衆の間で喜ばれ、長崎を代表する郷土料理の一つとなりました。
メニューの内容も、日本料理や地元食材をつかった料理、中華料理の東坡煮、洋風のパイ料理など、異なる文化の要素が融合している、独特の宴席料理です。そのため「和華蘭料理(わからんりょうり)」とも呼ばれています。
卓袱料理の主なメニュー
料亭によって細かなメニューの内容や品数には若干の違いがあるものの、必ず出される主要なメニューに東坡煮(とうばに) という豚の角煮と、パイ料理があります。今回、編集部では「史跡料亭 花月」にお邪魔し、選りすぐりのメニューをご紹介します。
※今回いただいたのは卓袱料理~御昼食 御夕食~お一人様23,760円(税込み)コース
まず、昔からの伝統で、女将か、披露宴であれば司会者の「お鰭をどうぞ」という一言で宴席が始まります。「お鰭をどうぞ」という一言は、「お客様お一人に魚一尾を使っております」という意味で、心を込めておもてなしします、という気持ちが込められているのです。
【御鰭(おひれ)】吸い物、「鰭椀」
卓袱料理の1品目。
通常は初めに鯛の胸鰭、椎茸か筍、青菜、紅白餅など山海の具材がはいったお吸い物がでてきます。
女将、または披露宴では司会者が「お鰭をどうぞ」と言い、全員が鰭椀を飲み干してから乾杯となり、宴会がスタートします。くれぐれも鰭椀の前につまみ食いはだめですよ!
【お造】お刺身の盛り合わせ
長崎近海でとれる季節の魚や貝などが味わえるお刺身の盛り合わせ。
鯛と甘海老はよく使われ、さっぱりとした甘味があります。
【ばら煮】十六寸豆、別名「満女」(黒豆煮)
冷めても美味しくいただける一品。
さっぱりとした甘さの丹波黒豆の煮物です。一口食べると、柔らかい甘さがまるで食後のデザートのようです。卓袱料理は中国寺院の精進料理と薬膳の精神が受け継がれており、食べると食欲増進し、消化不良、疲労などに効果があると言われています。その昔、10粒並べると、ちょうど六寸の長さになったことから、十六寸豆と呼ばれています。
【三品盛】海山里のもの口取り3種盛り
甘い錦卵、海鮮の煮凝り、山芋などの食材で作られ、里のもの・海のもの・山のものを表しています。昔は砂糖や塩など調味料が貴重だったので、おもてなしの気持ちを表すためたくさんの砂糖を使って作られました。
【湯引き】湯引きした魚料理
新鮮な魚をさっと熱湯にくぐらせて、冷水でしめてつくる魚料理。中華料理でもよく目にする調理法の一つです。
【中鉢 豚の角煮】東坡煮
「中鉢」というのは大鉢と小鉢の中間の大きさのお皿のことを言います。
冷めてもおいしい前菜のあとには、温かい料理が提供されます。「東坡煮」はその代表格。脂身と赤身のバランスがちょうど良い三枚肉をコトコトと煮込むことで、柔らかくジューシーでぷるぷるっとした食感に仕上がります。その香りだけでもよだれが止まりません。
【パスティー】パイ料理
西洋風のパイ料理もあります。具を丸い形のお碗にいれて、上から網状のパイ生地で装飾を施します。焼き上がるときれいな飴色の料理の出来上がりです。
食べる時は、まずパイ生地を刺して崩し、お椀の中に入れ具と混ぜて一緒にいただきます。「史跡料亭 花月」のパイ料理のお碗の中は、たっぷりフカヒレのはいったスープになっています。
【大鉢】季節料理の和食や煮物など
「大鉢」は大型の丸皿に盛られた料理で、料亭ごとに特色がある料理が供されます。例えば、鯛の蒸し料理、蟹料理、新鮮な野菜に海鮮など。山海の美味しいものがふんだんに使われた料理が出てきます。
【水菓子】食後の果物
季節の果物を使って作られたデザートです。
【梅椀】食後の甘味
紅白の丸い餅が入ったおしるこです。
卓袱料理の中で最後の「梅椀」と最初の「鰭椀」は対をなし、円で始まり円に終わることを意味しています。和気藹々とした円満を表現しているんですね!
【その他】天婦羅、漬物、汁物など
各料亭によって、予算やメニューの内容には違いがありますが、ご飯ものをふくめ約15品が提供されます。
卓袱料理が楽しめるおすすめの店――「史跡料亭 花月」:長崎の花街の建築と文化財を伝承している料亭
日本三大花街の一つとして有名な長崎の「丸山花街」。江戸時代、貿易によって大いに栄え、国内の政財界の著名人や文人墨客だけでなく、海外の権力者たちも多く訪れました。
「丸山花街」で創業380年あまりの「史跡料亭 花月」では、卓袱料理などを味わうだけでなく、前身の「引田屋花月楼」の古い建物や貴重な史料の展示を観ることができます。「集古館」の展示室では当時の画や俳句、歌本、そして坂本龍馬直筆の書などが展示されています。
宴席に使われる「竜の間」は、日本国内で初めて「テーブルと椅子」が使われた宴会場と言われています。部屋の中にある柱には坂本龍馬が酒を飲んだ勢いで切りつけた刀の痕も残っています。また花月の入り口には孫文が訪れた時の写真が飾られているんですよ!
400年近い歳月に渡り多くの史跡を残していることから、「料亭 花月」は長崎県の史跡に指定されています。みなさんも食事を楽しみながら、歳月の痕跡が紡ぐ興味深い物語に触れてみてくださいね。
Spot Information
- 名称:史跡料亭 花月
- 住所:長崎県長崎市丸山町2-1
- アクセス:長崎電軌 長崎駅前駅から思案橋駅まで約11分、下車から徒歩約4分
- 営業時間:12:00~15:00(L.O.13:00)、18:00~22:00(L.O.19:00 ※完全予約制(大人様2名様より)
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